散光星雲

散光星雲（さんこうせいうん、英語では diffuse nebula）とは、私たちの目に見える可視光線で観測できる、比較的広がりを持ったガスや宇宙の塵が集まった天体の総称です。

散光星雲の種類

散光星雲は、その発光メカニズムによって大きく二つのタイプに分類されます。

輝線星雲

輝線星雲は、ガス自身がエネルギーを得て光を発している星雲です。特に、近くにある非常に温度の高い（スペクトル型がO型やB型といった）恒星から放たれる強い紫外線を浴びることで、構成成分である水素ガスが電離されます。電離とは、水素原子から電子が剥がされる状態です。その後、電離された水素原子核（陽子）と電子が再び結びつく（再結合）際に、特定の波長の光を放ちます。これが輝線です。特に、水素原子のバルマー系列と呼ばれる輝線が顕著で、その中でも最も強く放射されるHα線（波長656.3ナノメートル）は、鮮やかな赤色をしています。このため、輝線星雲はしばしば赤い姿で見られます。

このように、輝線星雲は電離した水素原子（HII）が多く存在する領域であることから、「HII領域」とも呼ばれます。ただし、Hα線は赤外線に近い波長であり、人間の肉眼では感度が低いため、天体写真でないとその存在を確認しにくい輝線星雲も数多く存在します。

輝線星雲は、暗黒星雲のような濃いガスや塵の集まりの中で新しい星が誕生する際に形成されることが多いとされています。生まれたばかりの若い恒星が周囲に残ったガスを強力な紫外線で照らし、輝線星雲へと変化させるのです。このため、輝線星雲は誕生したばかりの若い星々が集まる散開星団と共存している例が多く見られます。

また、巨大な星が一生の最後に起こす超新星爆発の後に残る「超新星残骸」も、輝線星雲の一種として扱われることがあります。この場合、超新星爆発の衝撃波によってガスが圧縮・加熱されたり、シンクロトロン放射と呼ばれる特殊なメカニズムによって水素原子が電離・発光したりします。

反射星雲

反射星雲は、ガスや塵そのものが光っているのではなく、近くに存在する恒星からの光を反射することで、あたかも自らが輝いているかのように見える星雲です。例えるならば、夜間に車のヘッドライトに照らされて白く見える道路標識のようなものです。

反射星雲が反射している光は、光源となっている恒星の光がそのまま散乱・反射されたものであるため、反射星雲のスペクトル（光を波長ごとに分解したもの）は、近くにある恒星のスペクトルとほとんど同じになります。輝線星雲のようにガスの電離を必要としないため、高温の星だけでなく、比較的温度の低い恒星の周りにも存在することができます。

主な散光星雲の例

夜空には多くの美しい散光星雲が輝いています。代表的なものとして、以下の天体が挙げられます。

オリオン座のオリオン大星雲（M42、M43）
いて座の干潟星雲（M8）、オメガ星雲（M17）、三裂星雲（M20）
はくちょう座の北アメリカ星雲（NGC7000）、ペリカン星雲（IC5067-70）、網状星雲（NGC6960、6992-5）
いっかくじゅう座のばら星雲（NGC2237-9）
ペルセウス座のカリフォルニア星雲（NGC1499）
りゅうこつ座のηカリーナ星雲（NGC3372）

これらの散光星雲は、それぞれが独自の形や色を持ち、宇宙の広大さや多様性を私たちに示してくれます。

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