散切物

散切物（ざんぎりもの）について

散切物とは、明治維新以降の新しい風俗を取り入れた歌舞伎の演目であり、そのため「散切狂言」とも呼ばれています。この演目群は、文化の変革が進んだ時代背景を反映しており、特に明治4年（1871年）の断髪奨励を契機に、旧来の髷スタイルから洋風の髪型に移り変わる様子を象徴しています。これにより「散切り頭を叩いて見れば、文明開化の音がする」という言葉が生まれ、当時の社会の変遷を色濃く表現しました。

散切物には、人力車や洋風の衣装、毛布、汽車、新聞、さらにはダイヤモンドといった新しい物や概念がテーマとして取り上げられています。これらの要素は、その時代の生活様式や文化的背景を物語る貴重な証拠でもあります。とはいえ、演出や物語の構成は、従来の世話物のスタイルから大きく逸脱しているわけではなく、むしろ流行に乗った生世話物としての側面が強いのが特徴です。

散切物の初めての上演は、明治5年に京都で行われた『鞋補童教学』と『其粉色陶器交易』であり、これらの演目はサミュエル・スマイルズの著作『西国立志編』をもとにした訳劇です。この流れの中で、明治6年には二代目河竹新七（黙阿弥）の作品である『東京日新聞』が五代目尾上菊五郎の主演によって上演され、その後の散切物に新たな方向性をもたらしました。菊五郎は、市川團十郎の技法を模倣しつつ、この新たなジャンルを積極的に推進し、現在まで続く多くの散切物がこの流れから生まれました。

主な演目

現存する散切物の大半は黙阿弥の作品に由来しており、その中には勧善懲悪のストーリーが共通して含まれています。たとえば『女書生繁』や『高橋お伝』では、新時代に生きる女性像が描かれており、果敢に転換期を生き抜く姿が表現されています。また、『筆屋幸兵衛』では、没落した士族の苦境が描かれ、明治初期の社会風俗を見るための貴重な資料となっています。

散切物の主要な演目を以下に挙げます。

• - 東京日新聞（とうきょう にちにち しんぶん） - 通称「鳥越甚内」: 明治6年 (1873)
• - 冨士額男女繁山（ふじびたい つくばの しげやま） - 通称「女書生繁」: 明治10年 (1877)
• - 人間万事金世中（にんげん ばんじ かねの よのなか） - 通称「金の世の中」: 明治12年 (1879)
• - 綴合於伝仮名書（とじあわせ おでんの かなぶみ） - 通称「高橋お伝」または「かなぶみ」: 明治12年
• - 霜夜鐘十字辻筮（しもよの かね じゅうじの つじうら） - 通称「霜夜の鐘」: 明治13年 (1880)
• - 島鵆月白浪（しまちどり つきの しらなみ） - 通称「島千鳥」: 明治14年 (1881)
• - 水天宮利生深川（すいてんぐう めぐみの ふかがわ） - 通称「筆屋幸兵衛」または「筆幸」: 明治18年 (1885)
• - 月梅薫朧夜（つきとうめ かおる おぼろよ） - 通称「花井お梅」: 明治21年 (1888)

散切物の背景には、明治維新による様々な社会的変化があり、これらの演目はその時代を理解するための重要な要素となっています。特に、散髪や脱刀に関する令が発布される中で、人々の生活や価値観がどのように変わっていったのかを知る手段としても、散切物は重要な役割を果たしています。

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