敵区化教育

敵区化教育：北朝鮮工作員の韓国社会適応訓練

敵区化教育（てきくかきょういく）とは、北朝鮮が対南工作の一環として、韓国社会に潜入する工作員に対して行う徹底的な適応訓練のことです。この教育は、工作員が韓国社会に同化し、北朝鮮の工作員であることを疑われることなく活動できるようにすることを目的としています。「以南化教育（いなんかきょういく）」とも呼ばれます。

教育の背景

北朝鮮と韓国は、同じ朝鮮民族でありながら、政治体制の違いや長年の分断により、社会、文化、生活習慣、言語などあらゆる面で大きな違いがあります。そのため、北朝鮮から派遣される工作員は、韓国社会に適応するための特別な訓練を受ける必要があります。これは、単に言語の違いだけでなく、生活様式や価値観の違いを克服し、韓国社会に溶け込むことを目的としています。

1987年の大韓航空機爆破事件で逮捕された金賢姫元死刑囚が、韓国の自由な生活や経済的豊かさに触れて転向し、北朝鮮当局に騙されていたことを悟ったことが、敵区化教育を本格化させるきっかけとなりました。彼女の転向は、工作員の忠誠心の問題ではなく、韓国社会の実情に対する知識不足が原因であると判断され、徹底的な韓国社会適応訓練の必要性が認識されたのです。

訓練内容

訓練は、工作員が韓国に潜入した際、韓国人と全く同じように振る舞えるように行われます。具体的には、以下の様な内容が含まれます。

言語訓練: 韓国語の方言を含めた正確な習得。ソウル方言はもちろんのこと、慶尚道、全羅道、済州島など、各地方の方言を自在に操れるように訓練します。
社会・文化理解: 資本主義国である韓国の社会構造、政治文化、経済状況などについての理解を深めます。映画、テレビ、新聞、雑誌、書籍などの韓国メディアを幅広く利用し、芸能人やスポーツ選手の氏名、経歴、K-POP、ダンスなどを習得します。
地理情報: ソウル特別市の地形、交通手段、石油パイプライン、電気網、電話網などの地理空間情報を、地図上に正確に図示できるレベルまで訓練します。
実地訓練: 平壌にある「以南化環境館」という施設で、韓国の商店を模した場所で、買い物、支払い、日用品の使用方法などの実地訓練を行います。運転免許証、住民登録票、パスポート、金融機関の預金通帳など、あらゆる韓国の書類も用意されています。

訓練生は、この教育を通じて、北朝鮮の外の世界を初めて経験し、韓国社会の様々な側面を理解します。また、拉致被害者や脱北者の証言を基にした訓練も行われ、韓国社会の実情に対する理解を深めます。

訓練期間

訓練期間は、短い場合は6カ月から8カ月、長い場合は2年間にわたります。訓練生は、この期間中、徹底的に韓国社会の知識を吸収し、韓国人になりきれるように訓練されます。


敵区化教育は、北朝鮮が韓国社会に浸透し、工作活動を円滑に進めるための重要な手段です。この教育を通じて、工作員は韓国社会に溶け込み、その活動を遂行するために必要なスキルと知識を身につけるのです。

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