敵地脱出

敵地脱出 (Escape and Evasion, E&E)

概要

敵地脱出（Escape and Evasion、略称E&E）あるいは敵手脱出は、戦時下において敵勢力の支配下に取り残された兵士や、捕虜となった軍人が、自力で友軍の支配する安全な地域や、友好国、中立国へと生還を図るための極めて重要な軍事行動である。これは単なる逃走ではなく、緻密な計画と高度な技能が要求される生存戦略の一環と位置づけられる。

脱出の要領

必要性の発生

戦闘中に友軍部隊から分断され孤立した場合、あるいは航空機での作戦中に敵地に不時着を余儀なくされた場合など、兵士は速やかに敵地からの脱出を試みる必要に迫られる。また、万が一捕虜となった場合でも、尋問の専門家が存在し、厳重な警備網が敷かれた本格的な収容施設へ移送される前に、可能な限り早期に脱出を実行することが生還の可能性を高める上で決定的に重要となる。時間が経過するほど、敵の拘束は強固になり、脱出は困難の一途をたどるからである。

準備と計画

脱出の成功は、事前の情報収集に大きく依存する。敵の警備体制、具体的には警備兵の配置や人数、巡回ルート、警備犬の有無とその行動パターン、監視塔の位置、収容施設や周囲の地形の構造、敵の防衛線の位置、特に地雷原の敷設状況といった情報は、脱出ルートの選定や実行計画の策定に不可欠である。これらの情報に基づき、敵の監視の「穴」を見つけ出すことが求められる。また、友軍による砲撃や空爆が引き起こす混乱は、警備網を一時的に手薄にし、脱出の絶好の機会を提供する可能性があるため、こうした状況を注意深く観察することも重要である。

実行と隠蔽

脱出を決行したら、速やかに捕獲者から物理的な距離を取ることが肝心である。同時に、樹林帯、起伏の多い地形、建物などの障害物を巧みに利用し、敵が脱出者の姿を見失うように徹底的な隠蔽を図らなければならない。敵が脱出に気づくのが遅れれば遅れるほど、捜索範囲は広大になり、発見は極めて困難となるため、最初の段階での迅速かつ効果的な隠蔽がその後の命運を分ける。夜間や悪天候もまた、視界を遮ることで隠蔽を助ける要素となりうる。

脱出後の移動

敵の追跡を振り切った後も、危険は去らない。脱出者は遅滞なく、自国、あるいは自国と友好関係にある国や中立国へと移動する必要がある。ただし、友好国や中立国に庇護を求める場合、その国が敵国との間で捕虜の引き渡しに関する条約や協定を締結していないかについて、細心の注意を払わなければならない。不用意に条約締結国へ逃げ込んだ場合、敵に引き渡されるリスクがあるからだ。

国境越えの課題

特に陸路で国境を越える際には、新たな危険が待ち受けている。国境警備隊に敵兵士であると誤認され、攻撃を受ける可能性があるためである。これを避けるためには、自身の状況を極めて慎重かつ明確に伝え、相手の指示に厳密に従うことが求められる。また、身分証や認識票などを相手に見えやすい場所に提示するなど、自身が友軍の兵士であることを示す努力を惜しんではならない。不幸にも、こうした状況下で自軍や友好国の部隊によって誤って射殺されてしまう事例も報告されている。

関連事項

敵地脱出の厳しさや重要性は、多くの戦史や物語で描かれている。例えば、第二次世界大戦中のカウラ事件に見られるような大規模な捕虜収容所からの脱走や、『大脱走』、『マッケンジー脱出作戦』といった映画作品も、その困難さと同時に脱出に懸ける兵士たちの強い意志を描き出している。脱出は、単なる逃走ではなく、極限状況下における兵士の生存本能と専門的な訓練、そして何よりも強い意志によって初めて達成される、高度な軍事技能と言えるだろう。

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