文永寺 (飯田市)

文永寺

文永寺は、長野県飯田市にある真言宗智山派の寺院です。南原山という山号を持ち、静かで厳かな雰囲気が漂います。

歴史

文永寺は、文永元年（1264年）に創建されました。当時の天皇であった亀山天皇の勅願により、信濃国伴野荘の地頭であった知久信貞が、京都の醍醐寺理性院の隆毫阿闍梨を開山として招いたと伝えられています。創建以来、理性院とは深い繋がりを持ち、大元帥修法を厳修する勅願所として、朝廷からも重視されていました。その証として、天皇宸翰の女房奉書が8通も残されています。

知久氏からは、2世定成、4世頼舜、6世宗詢、7世仙耀、8世宗順と、多くの住職が輩出されました。特に、6世宗詢は康正2年（1456年）に後花園天皇から綸旨を賜り、大元帥堂が建立されました。

隆盛期には、12もの院坊が立ち並び、壮大な伽藍を誇っていましたが、天文23年（1554年）には、武田氏の兵火によって神ノ峰城とともに焼失してしまいました。しかし、徳川家康配下の伊那郡代官であった朝日受永により、朱印地70石が寄進され、再興の道が開かれました。現在の建物は、江戸時代中期以降に再建されたものです。

本尊として祀られている大元帥明王は、承和5年（838年）に入唐僧の常暁律師が請来したと伝えられており、長い歴史の中で大切に守られてきました。

境内

寺標が立つ山門をくぐると、唐破風入母屋造りの二天門が姿を現します。二天門を通り、まっすぐに伸びる参道を進むと、境内には鐘楼と阿弥陀堂が建っています。鐘楼の背後には築地塀が本堂境内を区切り、向唐門の勅使門が静かに佇んでいます。

二天門の門内には、増長天と多聞天が安置されています。これらは、天正年間に本堂が焼失した際に運び出され、難を逃れたものとされています。鐘楼にある梵鐘は、鎌倉時代の作とされ、長野県宝に指定されています。その美しい音色は、今も訪れる人々の心に響きます。

また、境内には、弘安6年（1283年）に南都（奈良）の石工である菅原行長によって造られた石室と五輪塔があります。「神（知久）敦幸」の銘が刻まれており、昭和5年（1930年）に国の重要文化財に指定されました。

文化財

文永寺には、以下の重要文化財があります。

重要文化財

石室
五輪塔

これらの文化財は、文永寺の歴史と文化を今に伝える貴重な遺産です。

文永寺は、その長い歴史の中で、多くの人々の信仰を集め、幾多の困難を乗り越えてきました。静寂に包まれた境内は、訪れる人々に安らぎと癒しを与えてくれるでしょう。

脚注

参考文献

『信州の文化シリーズ 寺と神社』1981年 信濃毎日新聞社
『探訪 信州の古寺 天台宗・真言宗』1996年 郷土出版社

もう一度検索