斉藤勝雄

斉藤勝雄：日本の庭園に足跡を残した造園家

斉藤勝雄（さいとうかつお）は、1893年（明治26年）に千葉県山武郡九十九里町で生まれ、1987年（昭和62年）に94歳でその生涯を閉じた、近代日本を代表する造園家の一人です。

高等小学校を卒業後、家業である造園業に携わった斉藤は、実践で培った技術を基に、早くから庭園術に関する著作の出版を志します。自ら各地に出版企画を持ち込む中で、彼の著述が東京帝国大学で造園学を講じていた田村剛の目に留まり、日本庭園協会の機関紙での執筆機会を得ることとなります。これが、彼の文筆家としてのキャリアの重要な第一歩となりました。

30歳の頃には、京都の著名な庭師である小川治兵衛（通称：植治）のもとで約3ヶ月間修業を積み、伝統的な技法や思想を学びました。この経験が、後の彼の作庭活動に大きな影響を与えたと考えられています。

1933年（昭和8年）頃からは、個別の造園工事から庭園の設計および監理へと活動の軸を移し、数々のプロジェクトを手がけるようになります。特に注目すべきは、1938年（昭和13年）にアメリカ合衆国のニューヨークおよびサンフランシスコで開催された万国博覧会において、日本庭園の作庭という国際的な舞台を任されたことです。これは、当時の日本の造園技術が海外でも高く評価されていた証であり、斉藤の名を広く知らしめる機会となりました。

国内においても、斉藤は多種多様な庭園を創造しました。東京都千代田区の三井生命本社ビル中庭（1961年）、渋谷区のNHK放送センター中庭（1968年）、港区のホテルパシフィック東京（1971年、箱根植木と共同）といった都市のランドマークとなる建築の庭園から、群馬県の白根魚苑、神奈川県横浜市の真言宗薬王寺、千葉県いすみ市の万木城カントリークラブ（1977年）など、その作品は商業施設、宗教施設、ゴルフ場、個人邸宅に至るまで広範に及びます。また、スイス・ジュネーブにある世界保健機構（WHO）のピースガーデン（1971年）を手がけるなど、海外でも活動を展開しました。

作庭活動と並行して、斉藤は非常に多くの著作を世に送り出しました。庭木の剪定法から始まり、『日本庭園の手法』、『庭園秘書口伝解』、『庭園意匠鑑』といった理論書、さらには『図解作庭記』や多巻にわたる『斉藤勝雄作庭技法集成』など、造園の技術、設計思想、歴史、管理に至るまで、その内容は多岐にわたります。これらの著作は、当時の造園技術者や愛好家にとって貴重な教科書となり、日本の造園文化の普及と発展に大きく貢献しました。

彼の長年の功績は高く評価され、1969年（昭和44年）には「日本庭園の手法に関する一連の研究」によって日本造園学会賞を受賞しています。また、箱根植木株式会社などの造園会社の顧問を務めるなど、後進の指導や業界の発展にも尽力しました。門下からは、国内外で活躍する枡野俊明など、現代を代表する造園家を輩出しています。

斉藤勝雄は、実践に基づいた確かな技術力に加え、それを体系化し言語化する能力にも長けていました。国内外での精力的な作庭活動と、造園に関する膨大な著作群を通じて、彼は日本の庭園芸術の継承と発展に多大な貢献を果たした、まさに近現代日本造園界の巨匠と言えるでしょう。

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