田村剛

田村 剛（たむら つよし、1890年9月7日 - 1979年9月4日）は、日本の造園分野において先駆的な役割を果たした造園家、造園学者、そして林学者です。岡山県に生まれた田村は、幼少期に次田家から田村家の養子となりました。国文学者である次田潤は実兄にあたります。

旧制岡山中学校（現在の岡山県立岡山朝日高等学校）、第六高等学校を経て、東京帝国大学農科大学林学科で学びました。学生時代には立山登山を経験しています。1915年に大学を卒業後、2年間、明治神宮の造営に携わり、神宮内外苑の整備に貢献しました。

彼の重要な業績の一つは、造園に関する理論の体系化です。1918年に刊行された名著『造園概論』の中で、「自然公園」という言葉を初めて提唱しました。この著書は、日本の造園学の発展に大きな影響を与えています。1920年には「日本庭園の発展に就いて」で林学博士の学位を取得。同年、東京帝国大学農学部に林学第二講座（造林学教室）内に造園学教室（後の森林風致計画学研究室）を設け、教育者としての道を歩み始めました。林学科だけでなく、建築学科や農学部園芸学講座でも講義を担当し、多くの後進を育成しました。

また、田村は日本の国立公園制度の確立に不可欠な役割を果たしました。1920年からは公園行政を担う内務省衛生局保健課の嘱託として、国立公園制度の創設に向けて尽力します。国立公園の制定趣旨を巡っては、自然そのものの厳格な保護を優先する立場と、国民が積極的に訪れて自然に親しみ、利用する場としての公園像を描く立場とが存在しましたが、田村は後者の「国民による公開と利用促進」を重視しました。この思想は、特に戦後の1953年に行われた佐世保市観光施設計画や西海国立公園候補地の自然公園計画調査において明確に示されています。この調査団には、加藤誠平、舘粲児、吉村巌といった人々も参加しており、鹿子前と烏帽子岳の二地区にゾーニングを提案。鹿子前には水族館や遊覧、宿泊施設を、烏帽子岳にはゴルフ場、キャンプ場、展望台、動物園、植物園といったレジャー・観光施設を計画するなど、積極的な利用を前提とした構想を展開しました。国立公園行政において指導的な立場から貢献したことから、「国立公園の父」と称されるようになります。

国際的な視点も持ち、1922年から1924年にかけて内務省嘱託を一時的に離れて欧米の国立公園事情を視察しています。また、1958年からは国際自然保護連合（IUCN）の国立公園委員会委員を務め、1962年には第1回世界国立公園会議にも出席しました。

自然保護運動への関与も特筆されます。1927年、尾瀬ヶ原水没計画に対して、後の日本自然保護協会へと発展する尾瀬保存期成同盟の結成に参加し、代表に就任して反対運動を展開しました。戦後の1951年には日本自然保護協会の初代理事長に就任しています。

国立公園制度の推進においては、1929年に国立公園協会の設立に参画して常務理事となり、啓蒙普及活動を開始。1931年の国立公園法成立に貢献し、1933年には内務技師に任命されました。台湾調査中の事故で片足を失うという経験も経ていますが、活動を続けました。

晩年においても、1967年に海中公園センターを設立し、西太平洋国際海中公園システム構想を発表するなど、新たな分野の開拓に取り組みました。日本造園学会の会長なども務めるなど、多くの要職を歴任しました。

田村剛が携わった代表的なプロジェクトとしては、氷川公園改良計画（師の本多静六と共同）、大正記念園、千鳥ケ淵戦没者墓苑、皇太子殿下御結婚記念大噴水などがあります。また、『造園概論』のほか、『実用主義の庭園』、『現代都市の公園計画』、『造園学概論』、『森林風景計画』、『国立公園講話』など、多数の著作を残しており、日本の造園学、公園緑地計画、風景計画の発展に多大な影響を与えました。

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