斎藤十郎兵衛 (能役者)

斎藤十郎兵衛について

斎藤十郎兵衛（さいとう じゅうろべえ、1763年 - 1820年）は、阿波徳島藩主蜂須賀家に仕えた能役者であり、江戸時代の文化に大きな影響を与えた人物です。特に、彼が東洲斎写楽の正体ではないかという説があるため、写楽と併せて語られることが多いです。彼の一生とその背景について詳しく探ってみましょう。

来歴

十郎兵衛は、徳島藩の江戸屋敷に居住しながら、お抱えの能役者として活動していました。彼は与右衛門または十郎兵衛という通称を用い、名を源太郎とすることもありました。斎藤月岑による著書『増補浮世絵類考』には、十郎兵衛が阿波藩のお抱え役者として八丁堀に住んでいたことが記されています。この地域には徳島藩の江戸屋敷があり、藩に仕える役者が居住していたことが確認されています。また、写楽の作品や蔦屋重三郎の店も同じ近隣に所在し、むしろ写楽の活動と絡む歴史的背景を形成していました。

十郎兵衛が写楽として画業を行ったのは、1794年5月から1795年1月にかけての約10か月間です。この期間は、徳島藩主の治昭が江戸に不在の時期と重なり、自由に活動できる環境が整っていました。研究者の間では、その活動についても様々な意見が交わされています。

公式記録と文書

斎藤十郎兵衛の存在は、江戸時代の公式な文書に度々登場しています。能役者の名簿『猿楽分限帖』や『重修猿楽伝記』、そして藩の古文書には、彼の名前が確かに記載されていました。書物の中には、彼が「写楽斎」と呼ばれていた記録や、八丁堀の地蔵橋に住んでいたことが示されています。

また、地蔵橋に住む斎藤十郎兵衛は、亡くなる58歳まで八丁堀に居住していたことが浄土真宗本願寺派の過去帳に記されています。この記録は、1997年に発見され、八丁堀に住んでいた斎藤十郎兵衛の生活が実証されました。

斎藤十郎兵衛と写楽との関係

多くの研究者は、斎藤十郎兵衛が写楽と同一人物である可能性が高いと考えています。浮世絵の専門家である浅野秀剛は、「写楽が誰か」という問いについて、斎藤十郎兵衛という説が広く受け入れられていると述べています。また、近年開催された大浮世絵展の公式図録にも、その見解が記載されました。

近代の研究においても、斎藤十郎兵衛がどのように写楽として浮世絵を描いたか、またその活動がどのように周囲に影響を与えたか、多岐にわたる検討が続けられています。例えば、斎藤は蔦屋重三郎という版元と関わりのあったことから、写楽作品の発表において重要な役割を果たした可能性があります。実際、重三郎の作品には写楽を模した絵が見受けられます。

まとめ

斎藤十郎兵衛は、江戸時代の歌舞伎や浮世絵に深く関与した能役者としてだけでなく、写楽の正体としての側面でも注目されています。彼の生涯は、多様な文化が交わる江戸を象徴するものとなっており、今なお多くの学者たちによって論じられています。その魅力と謎は、これからも研究の対象として重要であり続けるでしょう。

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