斎藤善右衛門 (9代)

斎藤善右衛門：東北を代表する資産家、政治家、実業家の生涯

斎藤善右衛門（さいとう ぜんえもん、1854年-1925年）は、戦前の宮城県を代表する資産家、政治家、実業家でした。名門黒沢斎藤家9代目当主として、多岐にわたる事業を展開し、地域社会に大きな影響を与えた人物です。本稿では、彼の生涯と業績を詳細に見ていきます。

幼少期と修養時代

1854年、東北三大地主と称された黒沢斎藤家の8代目、斎藤善次右衛門の長男として誕生しました。幼少期は、地元で漢学を学び、その後仙台藩校養賢堂で経史や剣道を修め、幅広い教養を身につけました。1868年、父が戦死したことで家督を継ぎ、仙台藩から桃生郡が離れたことをきっかけに、士分を維持するため仙台に移り住みました。しかし、翌年には見国隊の襲撃を受け、家財を奪われるなど、困難な時代を経験しています。その後、家禄を奉還して農家に帰り、家庭教師を招いて勉学に励みました。

政治活動と事業への転身

若い頃は、前谷地村長や二等戸長を務めましたが、叔父に事務を委任するなど、政治家としての活動は短期間でした。その後、西日本各地を遊歴し、酒造家への海外輸出の斡旋を試みるなど、商才を開花させ始めました。1882年には質業、1889年には酒造業を廃業し、金穀貸付業に専念。山口俊作の不動産管理会社を買収し、一大地主となります。衆議院議員に当選したこともありましたが、事業との両立が難しく、すぐに辞任しています。

事業拡大と訴訟

事業は、当初は地元の小農民への貸付でしたが、次第に隣接県への融資へと拡大していきました。しかし、その過程で利息遅滞者の抵当不動産の売却をめぐる詐欺取財罪で告訴され、収監される事態にも見舞われました。その後、無罪判決を得ますが、同様の訴訟に二度巻き込まれるなど、事業拡大には多くの困難が伴いました。

斎藤株式会社と斎藤報恩会の設立

銀行の台頭により貸金業が停滞すると、1909年には三井合名会社や安田銀行を参考に斎藤株式会社を設立し、都市貨幣市場に進出しました。鉱業や電気事業にも投資し、さらに北洋漁業にも進出しましたが、後に売却しています。1921年には、300万円を投じて財団法人斎藤報恩会を設立し、理事長に就任。教育や社会福祉事業に貢献しました。

晩年と死

晩年は、中風や腎臓病を患いながら、事業を続けました。1925年、71歳で死去。勲三等瑞宝章を受章し、東本願寺から法名を贈られました。

人物像

斎藤善右衛門は、剣道や弓術を嗜み、宗教にも関心を抱いていた人物でした。愛読書は『新律綱領』、『自由之理』、『西洋事情』、『益軒十訓』など。晩年には教訓歌を作り、山荘には『益軒十訓』に因んで名前を付けるなど、儒教的な影響も受けていたことが伺えます。

親族とその後

斎藤家は代々続く名家で、彼の死後も、長男が家督を継ぎ、斎藤会社、斎藤報恩会、仙台信託を引き継ぎました。しかし、戦後の農地改革や仙台信託の営業譲渡などにより、財産は減少していきました。現在も、屋敷の一部は庭園として残っています。

参考文献

小倉博『斎藤善右衛門翁伝』斎藤報恩会、1928年
酒井惇一「不動堂村農民運動の分析」『農業経済研究報告』第3/4巻、東北大学農学部農業経営学研究室、1961年
渋谷隆一「農村地方における中小信託会社の性格と機能」『農業綜合研究』第15巻第1号、農林省農業綜合研究所、1961年
澁谷隆一「資本主義の発展と巨大貸金会社」『農業綜合研究』第16巻第2・3号、農林省農業綜合研究所、1962年
佐々木和博「宮城県における大正期の博物館」『國學院大學博物館學紀要』第15号、國學院大學博物館学研究室、1990年
米澤晋彦「財団法人斎藤報恩会の設立と研究者たちの関わりについての一考察」『東北大学史料館紀要』第9巻、東北大学史料館、2014年
大藤修 (2011年1月). “近代巨大地主家（宮城県河南町齋藤家）文書の整理とアーカイブズ学的研究”. 科学研究費助成事業データベース. 2017年11月5日閲覧。
曽根原理, 永田英明, 村上麻佑子「企画展「学都仙台を支えた「天財」－斎藤報恩会と東北大学」」『東北大学史料館紀要』第12巻、東北大学史料館、2017年

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