士分

士分（しぶん）とは

士分は、江戸時代の武士階級における正規の武士身分を指し、一般的に公的に苗字を名乗り帯刀する権利が与えられていました。この身分は士格とも呼ばれ、武士の身分制度において重要な役割を果たしていました。

階級の構成

当時、藩の中には藩士を「騎士（侍）」「徒士（かち）」「卒（足軽）」の3階級に分類する制度が存在していました。このうち上位に位置する「騎士」と「徒士」が士分に該当します。騎士は上士にあたる武士で、騎乗することが許されるため、一定以上の知行を持つことが求められました。例えば、広島藩の浅野家では、100石以上の知行を持つ武士が騎士とされました。

下位に位置する徒士は、公的に騎乗を認められない者たちであり、卒はその下位にあたる者たちを指します。卒は歩卒を意味し、足軽に相当します。騎士は知行取りや御目見得を得ているのに対し、徒士は蔵米取りであり、幕府の制度においては旗本が騎士に、御家人が徒士に対応します。足軽以下は「軽輩」と呼ばれ、士分には含まれませんでした。

中間と小者

また、足軽の下には士分を持つ者に雇用される中間や小者が存在していました。足軽には苗字や帯刀が許される場合もあり、功績に応じて徒士に昇格できる機会もありましたが、中間以下には昇格の道が閉ざされていました。このため、士分を有する者とそれに属さない者との間には明確な境界が設けられていました。

藩士として認識されるのは厳密には士分を持つ者であり、拡大解釈を行った場合でも足軽までを含むことが一般的でした。中間や小者は藩の構成員とはみなされていませんでした。

他の士分の取得方法

士分を与えられて苗字や帯刀が許される者は、武士だけではなく、大商人や藩財政に貢献した者、学者など多岐にわたりました。この場合、許可には一代限りや永代、または帯刀のみの特例などが存在しました。また、百姓は苗字なしでは家の区別が難しいため、地名や自然物を名前につける形で私称することが行われていました。

赤穂浪士と士分

赤穂浪士の中でも寺坂信行は士分を持たない足軽身分であり、当時の慣習では切腹は士分を持つ者にのみ許可される名誉ある死とされ、士分を有しない者は斬首されることが通例でした。大石良雄は、寺坂がそのような立場にあることを不憫に思い、討ち入り後に彼を生き延びさせるための伝達役として任命したと言われています。

明治維新後の変化

士分は明治維新後に士族に編入され、その後、卒は卒族と呼ばれるようになりました。しかし、世襲の卒族は士族に、世代一代の卒族は平民とされるなど、生涯の地位の変化がありました。

士分の代価と存在

士分は高額な御家人株を購入することで獲得することも可能であり、19世紀には津和野藩で士分の人口が全体の7.7%、秋田藩では9.8%と、ほとんどの藩で領内人口の10%以下にとどまっていました。特に備中岡田藩では、身長が高いことを理由に農民が士分に取り立てられることもありました。このように、士分制度は非常に多様性があり、藩によって異なる運用がされていたことが特徴的です。

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