斗宿

斗宿（としゅく）は、「ひつきぼし」あるいは「ひきつぼし」とも読まれ、古代中国の天文学において星々を区画した二十八宿の一つに数えられます。これは天球を東西南北の四象に分けたうちの「北方玄武」を構成する七宿の筆頭にあたる重要な宿です。斗宿の基準星、すなわち距星（きょせい）としては、いて座のφ（ファイ）星が用いられています。この宿は、冬の夜空に輝くいて座の一部分に位置しており、その名の通り、ひしゃくのような形を連想させる星の並びを含んでいます。

星官（せいかん）とは、中国の伝統的な星座のことです。斗宿の中に位置する主たる星官で、この宿の名前の由来ともなっている「斗」は、特定の六つの恒星によって形作られています。これらの星は、天文学的にはいて座に属しており、具体的にはφ（ファイ）星、λ（ラムダ）星、μ（ミュー）星、σ（シグマ）星、τ（タウ）星、そしてζ（ゼータ）星です。これらの星々が連携して、天上のひしゃく、すなわち「斗」の形を描き出しています。斗宿全体としては、「斗」の星官を含め、合計10の小さな星官によって構成されています。

二十八宿は、単に星の位置を示すだけでなく、古代の人々の生活や行動を占う暦注（れきちゅう）としても活用されてきました。斗宿が司る日には、特定の種類の活動が吉とされ、また別の活動は凶と見なされました。例えば、土を掘る作業や井戸を掘削するといった土木作業は、斗宿の日に行うと良い結果が得られるとされました。これは、斗宿が水や大地に関連する吉兆を持つと考えられていたためです。しかし、一方で、家屋を取り壊す、すなわち家毀（かき）を行うことは、斗宿の日には避けるべき凶事とされました。このように、斗宿は生活の様々な局面における行動指針として重要な役割を果たしていました。

斗宿は、軍事においても象徴的な意味合いを持っていました。中国の古典的な兵法書である『武備志（ぶびし）』、特にその巻99から100にかけて記述されている「旌旗（せいき）」、すなわち軍旗に関する項目には、二十八宿にちなんだ軍旗のデザインや、それに紐づけられた将軍名が詳細に記されています。この記述によると、斗宿に対応する軍旗は「斗木豸（ともくち）」と呼ばれ、この旗を掲げる主将は「歐喙希節（おうかいきせつ）」という名であったとされています。これは、軍陣において二十八宿が方位や部隊配置、さらには将軍の名称にまで関連付けられていたことを示しており、天文学的な知識が現実世界の組織や戦略にいかに深く根差していたかを物語ります。

斗宿と関連付けられる有名な星の並びに「南斗六星」があります。これはいて座の主要な星々で構成され、その形から「南のひしゃく」と呼ばれます。斗宿は、この南斗六星を含む広範な領域に位置する宿であり、南斗六星は斗宿を理解する上で重要な目印となります。南斗六星は、天文学的な星座の一部であると同時に、中国の伝統的な星官「斗」とも関連が深い存在です。

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