斜線陣

斜線陣の戦術と歴史

斜線陣（しゃせんじん）とは、集団を斜めに配置した戦術的な陣形で、英語ではEchelon formationと呼ばれています。これは古代ギリシアの有名な将軍エパメイノンダスによって、特にレウクトラの戦いで使用されたもので、その後の戦術にも大きな影響を与えました。斜線陣は、敵の陣形の弱点を突くために自軍の兵力を効果的に配置する方法として重要視されてきました。

エパメイノンダスの戦術

エパメイノンダスは、テーバイ軍を指揮し、戦闘においてファランクスを変形させた斜線陣を考案しました。彼は、敵のファランクスの右側に弱点があることを見抜き、自軍の左側に主力を配置しました。これにより、敵の突撃が自軍の右側に向かう際に、その突撃を遅らせることができました。この戦術では、兵力のバランスを保つことや突破タイミングの見極めが重要であり、主力翼に兵力を集中させすぎないように注意が必要です。

古代ギリシアの戦闘スタイル

古代ギリシアでは、通常、重装歩兵で構成されるファランクスが充実した軍事編成として用いられ、戦闘の際に兵士たちは一斉に行進し突撃しました。しかし、通常のファランクスでは、左手に持つ盾が隣の兵士をカバーする一方で、最右列の兵士は右側面が無防備となっていました。これをカバーするために、屈強な兵士を右側に配置し、わずかに斜めに配置することが一般的でした。

斜線陣は、敵のファランクスの脆弱性を突くために自軍の左翼に突撃兵力を集中させる仕様であり、敵の突撃タイミングをずらすことで、全体の陣形が斜線を描くようになります。こうした斜線形状こそが、この陣形の名称の由来です。

レウクトラの戦い

レウクトラの戦いにおいて、エパメイノンダスはボイオティア軍を指揮し、スパルタを中心としたペロポネソス同盟軍と相対しました。彼は斜線陣を採用し、左翼に驚異的な人数を集中させ、その結果、左翼の部隊が50列に達したという記録も存在します。それに対し、スパルタ軍は12列に過ぎませんでした。突撃を遅らせたことにより、ペロポネソス同盟軍の右翼が崩壊し、その指揮官であるスパルタ王クレオンブロトス1世は戦死しました。この戦いは、テーバイ軍にとって決定的な勝利とされました。

その後の影響

残念ながら、エパメイノンダスはその後のマンティネイアの戦いで戦死し、彼の教義を継承できる人材はテーバイにはいなくなりました。これにより、テーバイは衰退しギリシアにおける覇権を失うこととなった。しかし、彼の戦術は当時テーバイに人質として送られたマケドニア王国の王子、ピリッポス2世によって受け継がれました。ピリッポス2世は斜線陣を改良し、カイロネイアの戦いでアテナイ・テーバイ連合軍を打ち破り、ギリシアの覇権を掌握しました。

その後、彼の息子であるアレクサンドロス3世もこの戦術を用いて、騎兵を合わせペルシャからインドに至るまでの広大な領域を征服しました。斜線陣の戦術は、古代の戦闘において画期的なものであり、後の戦略にも影響を与える重要な要素となりました。

空中戦におけるエシュロン

また、斜線陣という名は航空戦でも見られ、第二次世界大戦では、米海軍の戦闘機編隊においてエシュロン隊形が確立されました。この形態は、基本となる2機のエレメントから成り立ち、2つのエレメントが1つのフライト（小隊）を構成する形態です。斜線陣から派生したこの陣形も、戦術的に重要であると言えるでしょう。

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