斧槍兵の肖像

『斧槍兵の肖像』（伊:Alabardiere）は、イタリアのマニエリスム期を代表する画家、ヤコポ・ダ・ポントルモが1529年から1530年、または1537年頃に制作した油彩画です。元々は板に描かれていましたが、後にカンヴァスに移されました。現在はロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館に所蔵されており、その精緻な描写と歴史的背景から美術史的に重要な作品として知られています。

この作品の特徴の一つは、そのモデルを巡る様々な説が存在することです。最も有力な説は、この絵がフィレンツェ包囲戦中にフィレンツェ共和国の若い兵士であったフランチェスコ・グアルディを描いたものだというものです。この説は、ジョルジョ・ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』に、ポントルモによるグアルディの肖像画についての記述があることに基づいています。しかし、一部の研究者は、1537年のモンテムルロの戦いでの勝利後の若いコジモ1世を描いたものだと主張しています。これらの説は、絵画の制作年代や描かれている人物の服装、そして歴史的な出来事を考慮して議論されています。

絵画の構図も特筆すべき点です。描かれている人物は、コントラポスト（人体をS字型にねじる表現技法）のポーズをとっており、その身体の動きと緊張感が画面全体に動きを与えています。フィレンツェのウフィツィ美術館の素描版画室に所蔵されている準備素描は、より正面向きで、コントラポストのポーズが控えめであることから、ポントルモがこの絵画を描くにあたり、構図を大きく変更したことが窺えます。

また、この絵画は、その流転の歴史も興味深いものです。絵画は、多くの個人コレクションを経て、最終的にはフィレンツェのリッカルディ家のコレクションに所蔵されていたことが記録されています。そして1989年5月、J・ポール・ゲティ美術館に3250万ドルで売却されました。この売却価格は、当時のオールド・マスターの絵画としては史上最高額であり、美術界に大きな衝撃を与えました。

『斧槍兵の肖像』は、ポントルモの卓越した技術とマニエリスム様式の表現が見事に融合した作品であり、その歴史的背景と美術的な価値の両面から、多くの人々を魅了し続けています。この作品は、単なる肖像画ではなく、16世紀イタリアの歴史と文化、そして芸術家の創造性を象徴する傑作と言えるでしょう。

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