新エロイーズ

『新エロイーズ』、正式名称『ジュリ、または新エロイーズ』は、ジャン＝ジャック・ルソーが著した書簡体小説です。1761年に出版され、18世紀フランスで最大のベストセラーとなり、ロマン主義文学の先駆的作品として知られています。

この作品の副題にある「エロイーズ」とは、12世紀に実在した修道女の名前で、神学者アベラールとの悲恋で知られています。彼らは恋人であり夫婦でもありましたが、後に修道士と修道女となり、往復書簡を交わしました。この書簡が、後に書簡体小説というジャンルの形成に影響を与えたと言われています。『新エロイーズ』は、この往復書簡という形式を踏襲していることを示唆しています。

物語の舞台は、スイスのレマン湖畔です。貴族の令嬢ジュリと、彼女の家庭教師である平民のサン＝プルーの身分違いの恋が描かれます。二人は愛し合いますが、ジュリの父親の反対によって引き裂かれてしまいます。ジュリは父親の友人で無神論者のボルマールと、愛のない結婚をすることになります。

一方、傷心のサン＝プルーはイギリス人貴族ボムストン卿の援助で世界一周の旅に出ます。数年後、帰国したサン＝プルーを迎えたのは、夫ボルマールが理想とする共同生活を送る農園クラランでした。ボルマールは事情を承知の上でサン＝プルーを招き、子供たちの教育を託します。

ジュリとサン＝プルーは、かつての恋心を抱えながらも、それを過去の美しい思い出として乗り越えようとします。しかし、ジュリが湖に落ちた子供を助けようとしたことで、事態は急変します。死の床に伏したジュリは、サン＝プルーへの永遠の愛を告白する遺書を残して亡くなります。

この物語は全6部で構成されており、登場人物たちの心情や葛藤が、手紙を通して繊細に描かれています。

日本語訳としては、安士正夫訳の岩波文庫版が広く読まれています。全4巻で、1960年から1961年にかけて出版されました。

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