新井正男

新井正男は、1925年10月4日に埼玉県熊谷市に生を受けた、日本の高名な法学者であり弁護士であった人物です。専門は英米法学であり、特に判例法理論の研究で知られ、後年には中央大学の名誉教授の称号を授けられました。2019年1月6日に93歳でその生涯を閉じるまで、教育、研究、そして実務の現場で多大な貢献を果たしました。

法曹界を目指した新井氏は、研鑽を積み、1949年に難関である司法試験に見事合格します。翌1950年には中央大学法学部を卒業。さらに学識を深めるため、同大学の法学部大学院に助手として進み、守屋善輝教授の指導のもと研究活動を開始しました。その後、司法修習を終え、研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせます。1955年には中央大学法学部の助教授に昇任し、教育者としての活動の幅も広げていきました。

1962年、新井氏は中央大学法学部の教授に就任しました。この時期、研究の視野を国際的に広げるため、1963年から1965年にかけて海外に渡りました。具体的には、イギリスのロンドン大学とアメリカのミシガン大学ロースクールに研究留学し、英米法に関する知識や理解を深める貴重な機会を得ました。これらの海外での経験は、その後の新井氏の研究活動に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。

新井氏は、研究者・教育者としての顔に加え、中央大学という組織の運営においても重要な役割を担いました。1967年には通信教育学部の部長を務め、より多くの人々に学習の機会を提供するための教育体制づくりに尽力しました。また、1975年には日本比較法研究所の所長として、国内外の法制度を比較研究する学術活動を推進しました。さらに、1985年には中央大学附属中学校・高等学校の校長として、中等教育の現場にも関わり、人材育成に貢献しました。このように、大学内の様々な部門で要職を歴任し、その組織運営能力を発揮しました。

新井氏の主要な研究分野は英米法、中でも特に判例法理論に焦点を当てたものでした。長年の研究活動の集大成として、「判例法理論の研究」と題する論文を執筆し、1982年に中央大学から法学博士の学位を授与されました。この研究は、英米法における判例の持つ権威やその解釈・適用に関する深い考察を示しており、新井氏の学術的貢献の中でも特に重要な業績の一つと位置づけられます。

中央大学を1996年に定年退職した後も、新井氏の法曹としての活動は継続しました。退職と同じ年に中央大学名誉教授の称号が贈られるとともに、弁護士登録を行い、第二東京弁護士会に所属しました。大学での長年の研究と教育で培った豊富な知識と経験を活かし、弁護士として実務の世界でも社会に貢献しました。現在、インターネット上などで「新井・小口・星出法律事務所」という名称が確認できることから、新井氏が設立に関与したか、あるいは所属して活動していた時期があったことが伺えます。

新井氏は、その研究成果や専門的知見を多くの著作として発表しています。主な単著としては、

『イギリス法講義』（文久書林、1960年、1967年増補版）
『イギリス法の基礎』（文久書林、1973年、1984年第3版）
* 『判例の権威 : イギリス判例法理論の研究』（中央大学出版部、1987年）

などがあります。また、砂田卓士氏との共編による『英米法講義』（青林書院新社、1971年、1992年補訂版）や、ゴードン・ボーリー、オーブリー・Ｌ・ダイヤモンド両氏の著作を池上俊雄氏と共に翻訳した『消費者保護:イギリス法の歩み』（中央大学出版部、1975年、1995年新版第3刷）も手掛けています。さらに、『英米信託法辞典』（きんざい、1996年）においては分担執筆を行うなど、英米法に関する幅広いテーマでその専門知識を共有しました。

新井正男氏は、英米法学の研究者として、特に判例法理論の分野で顕著な業績を残し、法学博士の学位を取得しました。同時に、中央大学においては半世紀近くにわたり教鞭を執り、多くの後進を指導するとともに、通信教育学部長や研究所長、附属学校長といった要職を歴任し、教育機関としての大学の発展に貢献しました。さらに、弁護士として実務にも携わることで、研究者、教育者、そして実務家という多角的な視点から日本の法学界、法曹界に計り知れない影響を与えた人物と言えるでしょう。その生涯は、法学研究に対する飽くなき探求心と、教育への深い献身に貫かれていました。

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