新井石禅

新井石禅（あらい せきぜん）は、幕末の元治元年（1865年）1月16日に生まれ、昭和2年（1927年）12月7日に遷化した日本の曹洞宗の僧侶です。俗名を石井仙太郎といい、号は穆英。後に總持寺の独住5世、曹洞宗の第11代管長として宗門を率いました。

現在の福島県伊達市にあたる陸奥国伊達郡梁川村にて、石井家の三男として誕生しました。幼少より仏縁深く、12歳の時に出家を決意し、故郷の菩提寺である興国寺の住職、新井如禅師に師事しました。師から仏道の基礎を学び、修行に励む傍ら、学問への深い探求心を持ち続けました。

曹洞宗専門本校（現在の駒澤大学）に進学し、その学才を発揮しました。通常よりも大幅に短いわずか3年間という異例の速さで学業を修了したことは、当時の宗門内で注目を集めました。また、学問だけでなく実践的な修行にも熱心に取り組み、畔上楳仙や森田悟由といった、その時代を代表する優れた禅僧のもとを訪ね、厳しくも深い参禅を重ね、自己の禅境を深めていきました。

各地の主要な寺院で住職を歴任し、宗門における経験と実績を積んでいきました。善徳寺、浄春院、大栄寺、雲洞庵、護国院、最乗寺など、様々な環境で法務にあたり、多くの人々に禅の教えを説きました。これらの経験は、後に宗門全体の指導者となる上で貴重な基盤となりました。

宗門内での信頼と評価を高めた石禅師は、曹洞宗大学林の学監と教授を兼任し、後進の育成と教学の振興に尽力しました。さらに、宗門の教義に関する重要な役職である教学部長を務め、また永平寺の副監院として、大本山永平寺の運営にも深く関わりました。その後、總持寺の西堂を経て、大正9年（1920年）には、曹洞宗の二大本山の一つである總持寺の独住5世に就任するとともに、曹洞宗の最高責任者である第11代管長に推戴されました。

管長就任後は、宗門の発展と仏法興隆のために精力的に活動しました。国内外数百カ所を巡る大規模な巡教を行い、禅の教えを広く伝えることに努めました。その卓越した指導力と温厚な人格、そして深遠な禅境は、多くの人々の心を惹きつけ、熱狂的な崇敬を集めました。当時の人々は、石禅師の優れた徳化を目の当たりにし、「生き仏」と称賛して仰ぎ見ました。

仏法伝道だけでなく、教育事業にも深い理解と熱意を示しました。大正13年（1924年）には、女子教育の振興を目指して光華女学校（現在の鶴見大学附属高等学校）を設立しました。これは、禅の精神に基づいた人間教育の重要性を唱えた石禅師の教育理念の具現化であり、後の鶴見大学の礎ともなりました。

その波乱に富み、宗門内外に多大な功績を残した生涯は、昭和2年（1927年）12月7日に遷化をもって幕を閉じました。

石禅師は多くの著作も遺しており、その教えは文字としても後世に伝えられています。主な著作には以下のようなものがあります。

『曹洞宗要法話』（1908年）
『禅学入門』（1911年）
『信は力なり』（1931年）
『心機一転 - 修養の極致処世の秘訣』（1918年）
『証道歌講義』（1929年）
『處世禪』（1941年）

また、講演や法話などをまとめた『新井石禅師講話選集』や、体系的に教えを学べる『新井石禅全集』（全12巻）も刊行されています。石禅師の生涯と教えは、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索