最乗寺

最乗寺は、神奈川県南足柄市の豊かな自然の中に佇む曹洞宗の寺院です。正式名称は大雄山最乗寺。応永元年（1394年）に高僧・了庵慧明禅師によって創建されました。この寺院は、特にその開祖の弟子である妙覚道了（道了尊）への信仰が篤く、地元の人々からは親しみを込めて「道了さん」と呼ばれています。東国における曹洞宗通幻派の重要な拠点として、その歴史を刻んできました。寺紋は羽団扇です。

歴史と道了尊信仰

創建者である了庵慧明禅師は、禅の大家である通幻寂霊禅師の高弟であり、峨山五哲の一人に数えられています。通幻派の禅僧は、中世において各地で治水やインフラ整備などの社会貢献事業にも積極的に取り組み、人々の生活を支えることで広く支持を得ました。最乗寺のあるこの地でも、了庵禅師の法嗣であった妙覚道了が、寺院の創建や地域の開発に関わる土木工事に多大な尽力をしたと伝えられています。その功績と霊力から、道了尊は後に守護神として祀られるようになり、最乗寺が「道了さん」として親しまれる由縁となりました。寺院は修行道場としての役割も担い、歴代には余語翠巖、新井石禅、石附周行といった著名な禅僧が住職を務め、法燈を今日まで受け継いでいます。

修行と現代への取り組み

最乗寺は、開山以来、曹洞宗の修行道場として重要な位置を占めてきました。現在も僧堂を設置し、厳しい修行を通して多くの僧侶を育成しています。一方で、現代社会のニーズにも応えるユニークな取り組みも展開しています。「禅寺特訓道場」を設け、ビジネス向けの教育やコンサルティングを行う企業と提携し、社員教育プログラムを提供しています。これは、禅の精神や規律を現代のビジネスパーソンの育成に応用しようという試みであり、注目を集めています。

境内と見どころ

広大な境内には、歴史を感じさせる様々な伽藍や見どころが点在しています。

御真殿の高下駄: 特に有名なのが、道了尊が祀られる御真殿に奉納された巨大な高下駄です。「天狗の高下駄」とも呼ばれ、一対揃って初めて立つことができることから、夫婦円満や家内安全の象徴として厚い信仰を集めています。
多宝塔: 1863年（文久3年）に建立された多宝塔は、神奈川県内に現存する唯一のものであり、南足柄市の重要文化財に指定されています。その美しい姿は境内の景観を彩ります。
洗心の滝: 清瀧不動堂の下には「洗心の滝」があり、清らかな水の音が心を洗うかのような静寂をもたらします。
松平直基墓所: 江戸時代初期の大名、松平直基の墓所もあります。慶安元年（1648年）に没した直基は、一度最乗寺に葬られた後、一部が圓教寺に分骨されたという歴史が伝えられています。

札所と近年の動き

最乗寺は、関東三十六不動霊場の第2番札所でもあり、不動明王を信仰する人々からも多くの参拝を受けています。近年では、2010年10月31日に開催された首都圏御開帳の際に、約80年ぶりに本尊を乗せたみこしが復活し、小田原駅から旧東海道を渡御するという出来事があり、多くの人々の注目を集めました。

アクセス

最乗寺へのアクセスは、伊豆箱根鉄道大雄山線の終点である大雄山駅から車で約10分程度です。深い山間部に位置しており、静かで荘厳な雰囲気に満ちています。

結び

大雄山最乗寺は、応永元年の開山から600年以上の長い歴史を持ち、特に道了尊への信仰を通じて地域に深く根ざしてきました。古来からの修行の伝統を守りつつ、現代社会に向けた教育プログラムを展開するなど、常にそのあり方を進化させています。豊かな自然に囲まれた境内には、歴史的な建造物や信仰の対象となるものが多く、訪れる人々に静謐な時間と心の安らぎを与えてくれるでしょう。歴史、信仰、そして現代の取り組みが融合する魅力的な古刹です。

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