新免一五坊

新免一五坊（しんめん いちごぼう）

新免一五坊（1879年 - 1941年）は、明治時代から昭和時代にかけて活躍した日本の俳人であり、教育者でもありました。本名を睦之助といい、後に藤木姓を名乗りました。彼の俳号である「一五坊」は、本名の「睦」を分解して付けられたと推測されています。

生い立ちと初期の活動

1879年、岡山県吉野郡大野村（現在の美作市）で、代々庄屋や酒造家を務めていた旧家に生まれました。13歳で上京し、神田中学院、国語伝習所、哲学館予科を経て、18歳で小石川哲学館本科教育部を卒業しました。

1898年夏、一五坊は正岡子規の門下となり、根岸の子規庵で句会や歌会に参加するようになりました。同時期に哲学館で学んだ和田性海も子規門下として活動していました。子規は従来の月並俳句を批判し、「俳句革新」を提唱していました。

子規との交流

一五坊は、東京日本橋数寄屋町の長井医院に住みながら、根岸派の新進歌人として活動しました。1899年10月には、菊十句会で子規から幹事を任されるなど、その才能は高く評価されていました。また、幕末期の歌人である平賀元義の和歌が万葉調であることを、同郷の赤城格堂を通じて子規に伝え、このことは子規の『墨汁一滴』にも大きく取り上げられました。

山梨での活動

1901年、一五坊は山梨県に移り住み、医学を学ぶ傍ら俳句会を指導しました。この頃、父を亡くしています。山梨県は伊藤左千夫も活動拠点としていた地であり、一五坊は左千夫よりも早く入門し、左千夫と面識があったことから山梨における活動を主導しました。山梨転居後も子規との交流は続き、1902年には病床の子規にやまめを届け、子規は『病牀六尺』で感謝の意を表明しました。

子規の死後、山梨では「白雛会」を主催していた堀内柳南や一五坊、神奈桃村らが中心となり、甲府市で「山梨文学大会」を開催しました。これは俳誌『白雛』の刊行へとつながります。

教員としてのキャリアと晩年

山梨を離れた後、一五坊は1905年に兵庫県で結婚し、藤木姓を名乗りました。翌年からは佐用郡の小学校教員として勤務し、1913年には北海道美幌村の小学校校長として赴任しました。北海道では20年間を過ごし、1934年に故郷へ戻りました。1941年、神戸市の病院で62歳で亡くなりました。

やまめの歌碑

山梨県富士吉田市には、一五坊と子規の交流を記念した「やまめの歌碑」が建立されています。この碑は、富士山と杓子山を望む場所にあり、碑面には子規の『病牀六尺』から「やまめ三尾は甲州の一五坊より」の一節が刻まれています。この碑は、地元の文人である柏木白雨が尽力して建立され、多くの人々によってその功績が讃えられました。また、除幕式には一五坊の二女である藤木敏子をはじめ、100名以上の人々が参列しました。

参考文献

福岡哲司「伊藤左千夫と山梨の歌人たち-もうひとつの「アララギ」前史-」『山梨県史研究-第11号-』山梨県、2003年
『正岡子規とその時代』山梨県立文学館、2006年
井上康明「新免一五坊「筆の跡」翻刻」『資料と研究 第十五楫』山梨県立文学館、2010年
内藤成雄「中村星湖」『富士北麓と文化人たち』1986年1月1日。
内藤成雄「新免一五坊」『富士北麓と文化人たち』1986年1月1日。
内藤成雄「土屋文明」『富士北麓と文化人たち』1986年1月1日。
内藤成雄「柏木白雨」『富士北麓と文化人たち』1986年1月1日。
内藤成雄 著、毎日新聞社甲府支局 編『富士北麓と文人たち』株式会社ぎょうせい、1986年1月1日。ISBN 4-324-00333-5。

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