堀内柳南

堀内柳南：教育と俳句に生涯を捧げた人物

堀内柳南（ほりうち りゅうなん、1873年4月20日 - 1932年2月1日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した教育者であり、俳人です。山梨県巨摩郡大八田村（現在の北杜市長坂町）に生まれ、本名を堀内常太郎といいました。柳南は彼の俳号です。

教育者としての足跡

柳南は、1896年に山梨尋常師範学校を卒業後、南都留郡谷村尋常小学校を皮切りに、山梨県内の小学校で教鞭を執りました。33歳で一時教職を離れ、俳句に専念するために上京しますが、妻の死をきっかけに帰郷し、再び教職に戻りました。その後は、龍岡、秋田、小淵沢、泉、村山西など、峡北地方の小学校で校長を歴任しました。

教育者として、柳南は常に先進的な取り組みを試みました。特に、国語教育に力を注ぎ、垣内松三の「国語の力」をいち早く授業に取り入れたり、「赤い鳥」を創刊した鈴木三重吉と連携して児童の詩作を奨励したりしました。その結果、柳南が勤務した北巨摩郡の小学校からは、「赤い鳥」に数多くの児童作品が掲載され、全国的にも注目を集めました。

俳人としての才能

柳南は、10代後半に自由民権派新聞の編集長を通じて俳句と出会い、その魅力に惹き込まれました。1900年には、赴任先の谷村で「白雛会」を結成し、正岡子規の弟子である新免一五坊らと交流を深めました。また、1902年には新免一五坊と共に「山梨文学大会」を開催するなど、山梨県における俳句文化の発展にも貢献しました。

柳南の俳句は、自然や日常生活を繊細に捉えたものが多く、『ホトトギス』や『層雲』などの俳誌に掲載されました。彼の句には、「内観の戸に立秋の草咲けり」のように、心象風景を鮮やかに表現した作品が多く見られます。この句は、山梨県立農業大学校長坂教場の師道碑にも刻まれています。

社会教育への貢献

柳南は、教育者としての活動に加えて、社会教育にも力を注ぎました。大正デモクラシーの影響下、自由教育が広まる中、北巨摩郡では「成人教育」や「国語教育」が盛んになり、その中心的な役割を担ったのが柳南でした。

北巨摩郡教育会の会長として、柳南は夏期大学を主催し、芥川龍之介などの著名な文化人を講師として招きました。特に、1923年に開催された講演会では、芥川龍之介が「文芸について」というテーマで講義を行い、地域の人々に大きな刺激を与えました。

また、柳南は地域文化の記録にも尽力し、1930年には「北巨摩郡勢一班」を編纂しました。この書物は、当時の北巨摩郡の姿を詳しく伝える貴重な資料となっています。

登山家としての側面

柳南は、登山家としての側面も持ち合わせていました。特に八ヶ岳に関する知識は深く、1919年には「八ヶ嶽新縦走路」と題した記事が朝日新聞に連載されました。彼の探求心は、教育、俳句、そして自然へと、多岐にわたっていました。

晩年と遺産

堀内柳南は、1932年2月1日に59歳で亡くなりました。彼の生涯は、教育への情熱、俳句への愛情、そして地域社会への貢献に満ち溢れていました。柳南の教育者としての功績は、山梨県、特に北杜市において、今もなお語り継がれています。また、俳人としての彼の作品は、日本の俳句史においても重要な位置を占めています。

教職歴

1896年（明治29年）4月 - 山梨県南都留郡谷村尋常小学校（現・都留市立谷村第一小学校）勤務
1901年（明治34年）4月 - 山梨県南都留郡明見尋常小学校（現・富士吉田市立明見小学校校長）
1901年（明治34年）12月　山梨県南巨摩郡身延尋常小学校（現・身延町立身延西小学校）校長
1906年（明治39年）5月 - 身延尋常小学校退職。東京市富士尋常小学校（現・東京都台東区立富士小学校）勤務
1907年（明治40年） - 富士尋常小学校退職。山梨県北巨摩郡龍岡尋常高等小学校（現・韮崎市立甘利小学校）校長
1908年（明治41年） - 山梨県北巨摩郡秋田尋常高等小学校（後の北杜市立秋田小学校・廃校）校長
1909年（明治42年） - 山梨県北巨摩郡小淵沢尋常高等小学校（現・北杜市立小淵沢小学校）校長
1922年（大正13年） - 山梨県北巨摩郡泉高等小学校（現・北杜市立泉小学校）校長
1924年（大正15年） - 山梨県北巨摩郡村山西尋常高等小学校校長（現・北杜市立高根西小学校）・組合立村山西農業補習学校長兼助教諭
1931年（昭和6年） - 山梨県北巨摩郡村山西尋常高等小学校を依願退職

参考文献

『山梨百科事典』〈増補改訂版〉山梨日日新聞社、1989年
『甲斐と甲州道中』吉川弘文館 飯田文弥、2000年
『図説 韮崎・巨摩の歴史』郷土出版社 萩原三雄監修、2000年
『柳南の本』〈ながさか、もっと知りたい!!BOOKLET4〉長坂町郷土資料館、2002年
『赤い鳥』における山梨県児童詩教育　溝口克己　1989年
『長坂町誌 下巻』長坂町、1990年
「広報ながさか」長坂町、2000年
『新潮日本文学アルバム』新潮社、1983年
* 『エピソード』サンニチ印刷、2000年

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