新日本建設国民運動

新日本建設国民運動（しんにほんけんせつこくみんうんどう）は、1947年に日本の内閣総理大臣を務めた片山哲率いる内閣（日本社会党が中心）によって主導された、国民の文化水準や精神面、そして日々の生活の質を向上させるための啓発・改善運動です。これは、戦前に見られた国家主義や日本主義を標榜する動きとは明確に異なる立場を取るものでした。

概要と発足

この運動の基本的な方針は、1947年 6月20日に閣議決定された「新日本建設国民運動要領」によって正式に定められました。文部大臣であった森戸辰男氏が、この要領の策定および推進において重要な役割を果たしたとされています。

「要領」には、荒廃からの祖国再建を目指す「積極的な意欲と情熱に満ちた、力強く新たな精神」の必要性が説かれました。また、自立して自分の力で立ち上がろうとする「自立自救の責任感」と、互いに助け合う「相互扶助の友愛心」、そして困難な生活状況にも「打ち克つ心構え」を持つことの重要性が強調されました。さらに、「明日の正しく明るく力強い文化日本」を築くことへの強い志向が示され、国民一人ひとりの精神的・文化的な成長と自己啓発が強く呼びかけられました。

七つの目標と「新生活国民運動」

これらの理念を実現するため、「要領」は具体的な七つの目標を設定し、これらを達成するための活動を「新生活国民運動」として全国的に展開することを奨励しました。その七つの目標は以下の通りです。

1. 勤労意欲の向上
2. 友愛と協力の精神の発揮
3. 自立精神の育成
4. 社会正義の実現
5. 合理的かつ民主的な生活習慣の確立
6. 芸術、宗教、スポーツの重視
7. 平和運動の推進

これらの目標に基づき、社会教育連合会（現在の全日本社会教育連合会）が編集した書籍『新日本建設の道』（1948年、印刷局刊）なども出版されました。この書籍は、「第1章」で当時の経済状況を概観した後、「第2章」以降で七つの目標それぞれに焦点を当てた構成となっていました。各章は、それぞれの分野における著名な専門家や文化人が執筆を担当しました。

具体的には、「勤労意欲の高揚」を国際労働機関（ILO）東京支局長などを歴任した鮎沢巌氏が、「友愛・協力の発揮」を教育者の笹森順造氏が、「自立精神の養成」を経済学者の高橋誠一郎氏が、「社会正義の実現」を推進者である森戸辰男氏自身が、「合理的民主的な生活慣習の確立」を婦人運動家の奥むめお氏が、「芸術・宗教およびスポーツの重視」を文筆家の新居格氏が、そして1946年から独自のキリスト教運動を展開していた賀川豊彦氏が「平和運動の推進」について執筆しています。

運動の展開と対象

新日本建設国民運動は、社会の幅広い層を動員の対象としました。各界の代表者に加え、学校や教育関連団体、青年団、婦人会、労働組合、農民組合、様々な産業団体、法曹関係者、文化団体、宗教団体などが運動の推進役として期待されました。

また、新聞、雑誌、放送、映画、演劇、音楽、文芸といった各種メディアも運動の普及のために活用が求められました。「要領」では、全国各地に国民運動協議会を設置し、地域の公民館を拠点として、それぞれの「地方の実情」に合わせた「新生活国民運動」を展開することが促されました。

企業や労働組合に対しては、「勤労者の教育を徹底し、職場を中心としたレクリエーション運動を促進する」ことが推奨されました。この点に関しては、後に企業による家族計画への干渉に繋がったという指摘も存在します。

当初、「要領」は日本国憲法の理念に基づく政治教育運動を推進するため、憲法普及会との連携を構想していました。しかし、憲法普及会が1947年末に解散したため、この連携は十分に実現しませんでした。一方で、地域レベルでは「新生活運動推進協議会」のような組織が各地に設立され、片山内閣が退陣し、保守勢力が合同した後も、一部の地域や企業においては住民全体、あるいは従業員全体を巻き込んだ運動として継続されていきました。

新日本建設国民運動は、戦後復興期の日本において、国民の精神的な支柱となり、民主主義社会の担い手を育成しようとする意欲的な試みでした。その理念は、その後の日本の社会教育や地域活動にも一定の影響を与えたと考えられます。

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