憲法普及会

憲法普及会は、1946年12月1日、占領下の日本において、連合国軍総司令部（GHQ）の強い指導と支援のもと、当時の政府と帝国議会が一体となって設立した公的な組織です。その主要な使命は、前月に公布されたばかりの新しい日本国憲法を国民に広く普及させ、その内容への理解を促進することにありました。

組織は帝国議会内に設置され、設立当初は衆議院の憲法特別委員長を務めた芦田均が会長に就任しました。副会長には憲法問題担当国務大臣であった金森徳次郎、理事長には内閣書記官長の林譲治が名を連ねるなど、政府・議会の要職にある人物が中心的な役割を担いました。理事には、宮沢俊義、鈴木安蔵、末川博、河村又介、田中二郎、横田喜三郎、清宮四郎、浅井清といった著名な法学者をはじめ、法制局長官の入江俊郎や読売新聞記者の山浦貫一ら、各界の専門家や実務家が参加しました。帝国議会が廃止された後、憲法普及会は文部省社会教育局の所管となり、その外郭団体として活動を継続しました。組織は中央だけでなく、各都道府県にも支部が設けられ、全国的な普及活動を展開しました。

主な活動として、法学者や専門家を講師に招き、公務員を対象とした研修会を実施しました。1947年2月には5日間にわたる憲法普及特別講習会が開かれ、各省庁からの推薦を受けた約700名の職員に加え、東京帝国大学の学生にも傍聴が認められた結果、連日1,000人を超える参加者が集まりました。また、一般市民向けの講演会も各地で開催し、新憲法の理念や具体的な内容について分かりやすく解説しました。

さらに、多様なメディアを活用した普及事業も精力的に行われました。新憲法に関する懸賞論文の募集、憲法をテーマにした楽曲やカルタの制作・配布、関連出版物の刊行などが進められました。これらの普及啓発活動を後押しするため、協会の資金や企画によって劇映画も制作されました。

1947年6月20日には、閣議決定された「新日本建設国民運動要領」の中で、憲法普及会がこの国民運動の中心となり、日本国憲法に基づく政治教育運動を推進することが明記されました。同年11月3日には、新日本建設国民運動や民主政治教育連盟といった他の団体と共に「平和祭」を開催するなど、関連団体との連携も図られました。

憲法普及会は1947年末には解散しましたが、その活動の成果はその後も影響を残しました。編纂された刊行物は、解散後も1948年頃まで一般の出版社から流通していました。また、その活動の一部は、1947年8月25日に国会議員らによって発足した民主政治教育連盟（現在の日本教職員組合関連の政治団体とは異なる）によって引き継がれました。

憲法普及会が普及啓発のために制作した具体的な作品としては、以下のようなものがあります。

楽曲
「われらの日本」（新憲法施行記念国民歌、土岐善麿作詞、信時潔作曲）：1947年5月3日の新憲法施行式で初演。
「憲法音頭」（サトウハチロー作詞、中山晋平作曲）：1947年5月3日の記念講演会で初演。
カルタ
「新憲法いろはかるた」（辰野隆、颯田琴次、徳川夢声、サトウ・ハチロー作、横山隆一絵）：新憲法の条文や精神を分かりやすく表現。
映画
短編記録映画「新憲法の成立」：憲法改正の国会審議や発布後の様子を収録。
劇映画「壮士劇場」（稲垣浩監督）：自由民権を主題。
劇映画「情炎」（渋谷実監督）：男女平等、女性の地位向上を主題。
劇映画「戦争と平和」（亀井文夫、山本薩夫監督）：戦争放棄を主題。
出版物
自ら発行したもの：小冊子『新しい憲法 明るい生活』（家庭向けに2000万部配布）、『英国の議会政治・国際連合の話』、『事業概要報告書』など。
* 編集に関与し、出版社から刊行されたもの：『国民主権と天皇制』（尾高朝雄著）、『新憲法講話』（政界通信社）、『戦争の放棄』（横田喜三郎著）、『新憲法と家族制度』（中川善之助著）、『新憲法と基本的人権』（我妻栄著）、『新憲法と国会』（宮沢俊義著）など多数。これらの出版物は、憲法の様々な側面について、専門家による解説を提供しました。

このように、憲法普及会は短期間の活動ながらも、戦後の日本社会における新憲法の受容と理解促進に大きな役割を果たした団体でした。

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