新編会津風土記

『新編会津風土記』

『新編会津風土記』（しんぺんあいづふどき）は、江戸時代後期に会津藩が藩の公式事業として編纂した、広大な会津藩領全域に関する詳細な地誌です。その規模は圧巻の全120巻に及びます。編纂作業は享和3年（1803年）に開始され、約6年の歳月をかけて文化6年（1809年）に完成し、当時の江戸幕府へ提出されました。

概要と内容

この膨大な地誌は、巻之一の「提要」から巻之百二十の「外篇下野国塩屋郡」まで、体系的に構成されています。巻頭には、当時の会津松平家第7代藩主であった松平容衆（まつだいら かきとも）による序文が付されています。本文では、藩内各地に伝わる古文書類、藩領の境界線や領域、そして具体的な地域として陸奥国（現在の福島県周辺）の会津郡、耶麻郡、大沼郡、河沼郡、安積郡福良組、越後国（現在の新潟県）の蒲原郡、魚沼郡、さらには下野国（現在の栃木県）の塩谷郡川島組といった広範囲にわたる地域が記述の対象となっています。

記述内容は、以下の16の部門に細分化され、網羅的に情報が収集・整理されています。

藩内古文書：藩内に伝わる歴史的な文書に関する記述。
界域：藩領の地理的な範囲や境界について。
山川：山岳や河川といった自然地理。
原野：平地や未墾地に関する記述。
土産：その土地の特産品や産物。
関梁：関所や橋などの交通施設。
水利：治水や灌漑など水資源の利用に関する情報。
郡署：郡役所など行政機関。
倉廩：年貢米などを保管する蔵。
神社：各地の神社の由緒や祭祀。
寺院：各地の寺院の由緒や宗派。
墳墓：古墳や墓所。
古蹟：歴史的な旧跡や遺跡。
釈門：仏教に関する事項（寺院以外）。
人物：藩領ゆかりの歴史上の人物。
旧家：代々続く地域の旧家。
褒善：善行を顕彰された人々。

これらの部門にわたる詳細な記述は、当時の会津藩領の自然環境、社会構造、経済状況、文化、信仰、歴史などを理解する上で非常に貴重な情報源となっています。

歴史的意義

『新編会津風土記』は、単に一地方藩の地誌としての価値に留まりません。江戸時代後期の江戸幕府は、全国的な地誌編纂事業を推進しており、この会津藩による地誌はその模範とすべきモデルケースの一つとして編纂された側面があります。その詳細かつ体系的な記述は、後代の地誌編纂にも影響を与えました。また、江戸時代に編まれた数多くの地誌の中でも、その内容の網羅性、記述の正確さ、そして規模の大きさから、日本の代表的な地誌の一つとして、歴史学、地理学、民俗学など様々な分野において高く評価されています。

所蔵と利用

現在、『新編会津風土記』の貴重な写本全120巻は、以下の主要な図書館や機関に所蔵されており、研究者などがその内容を閲覧することが可能です。

会津若松市立会津図書館
福島県立図書館
内閣文庫
京都大学

また、この膨大な記録を現代の多くの人々が利用できるよう、過去には何度か活字化も試みられています。主な活字本としては、明治期から昭和にかけて、そして比較的新しいものまで、複数の版が存在します。

『新編会津風土記』13巻 （若松市萬翠堂、1893-1901年）
「大日本地誌大系」30-34 （雄山閣、1932-1933年）
「福島県史料集成」1-3 （福島県史料集成刊行会、1952年）
「大日本地誌大系」25-29 （雄山閣、1962年）
『新編会津風土記』5巻 （雄山閣、1975年）
* 『新編会津風土記』5巻 （歴史春秋出版、1999-2003年）

これらの活字本や、一部はデジタルアーカイブとしても公開されており、現代においても『新編会津風土記』は、会津地方をはじめとする関連地域の歴史や文化を深く理解するための不可欠な基本文献として活用され続けています。

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