方励之

方励之:天体物理学者と民主化運動家の波乱万丈な生涯



方励之(1936年 - 2012年)は、20世紀後半の中国を揺るがした天体物理学者であり、民主化運動家でした。彼の生涯は、中国共産党との複雑な関係、科学への情熱、そして自由への飽くなき追求によって彩られています。

1936年、方励之は中国で生まれました。12歳の頃にはすでに中国共産党の青年組織に加盟しており、その後1955年には党員となります。北京大学物理系学科を卒業後、中国科学院物理研究所に就職。1956年の百家争鳴運動に共鳴し、党に改善を求める手紙を送ったことで「反右派闘争」に巻き込まれ、一時的に党を除名されました。

その後、中国科学技術大学の教員となり、文化大革命中には投獄されるも、後に名誉回復を果たし、再び党籍を取得。相対論天体物理学に関する学術書を執筆するなど、研究者として活躍しました。1981年には京都大学基礎物理研究所で客員研究員を務めるなど、国際的にも高く評価されていました。

1984年、中国科学技術大学第一副学長に就任した方励之は、就任挨拶で「思想の自由」を大学の運営方針に含めるべきだと主張します。この発言は、当時の中国共産党幹部の注目を集めることとなります。1986年には安徽省合肥市の人民代表選挙で当選を果たすも、翌年には鄧小平の指示により党を除名され、大学を解任されました。

しかし、方励之は研究者としての活動を続け、北京天文台に勤務。1989年には、魏京生の釈放を求める公開書簡を鄧小平に送るなど、民主化運動への関与を深めていきます。同年、アメリカ大使館によるジョージ・H・W・ブッシュ大統領訪中返礼晩餐会への招待を受けるも、中国当局によって阻止されました。

1989年6月3日深夜から発生した天安門事件では、中国政府は方励之を動乱の首謀者とみなして拘束を試みました。方励之とその家族は、アメリカ大使館に保護を求め、亡命しました。1990年、アメリカ政府の働きかけや日本政府による融資再開の示唆など様々な背景を経て、イギリスへの出国が許可されます。

その後、ケンブリッジ大学プリンストン大学などを経て、1991年にはアリゾナ大学教授に就任。また、中国人権理事会の共同議長にも選ばれ、亡命後も民主主義と人権のために活動を続けました。2012年、アリゾナ州ツーソンで76歳で亡くなりました。

方励之の著作には、『中国よ変われ――民主は賜わるものではない』、『方励之が語る宇宙のはじまり――最初に何が起こったか?』、『中国の失望と希望』、『中国の終末――中国共産党は死んだ』などがあります。これらの著作は、彼の科学者としての視点と民主主義運動家としての信念を反映したものであり、現代中国を理解する上で重要な資料となっています。彼の生涯は、科学と民主主義の両面において、自由と正義を追求し続けた稀有な人物であったことを示しています。方励之の功績は、中国の民主化運動史、そして天体物理学の発展において、永く記憶されるべきでしょう。

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