北京天文台

北京天文台の歴史と貢献

北京天文台（Beijing Astronomical Observatory, BAO）は、中国科学院によって1958年に設立された、天体物理学を中心とする包括的な研究機関です。設立当初から、中国の天文学研究を牽引する重要な役割を担ってきました。2001年に中国科学院国家天文台に統合されるまで、数々の観測施設を建設し、天文学の発展に大きく貢献しました。

設立の背景

1956年、中国科学院は天文学の12ヶ年計画を策定し、北京に総合的な観測研究拠点を設けることを決定しました。この計画に基づき、1957年には北京天文台の設立が正式に決定され、翌1958年には準備室が発足しました。設立初期から観測拠点の整備も進められ、光学観測所の候補地選びと並行して、紫金山天文台が計画していた報時所の設置場所を北京とし、北京天文台の管理下に置くことになりました。

初期の活動と発展

設立当初は、1958年4月19日の日食における中ソ共同観測に端を発し、電波観測と太陽観測が主な活動でした。1960年までに各重点分野での研究グループが結成され、観測施設の整備と研究が推進されました。1960年代には、天津緯度観測所が北京天文台の傘下に加わり、光学観測拠点として興隆観測所が、電波観測拠点として密雲観測所が建設されました。大躍進政策や文化大革命による困難を乗り越え、観測研究能力を拡充していきました。

観測拠点の拡充と発展

1980年代には、新たな太陽観測拠点として懐柔観測所が設置され、光・赤外線天文学や電波天文学においても、より大型・高性能の望遠鏡が次々と完成しました。これらの施設は、中国天文学の躍進を支える中心的な役割を果たしました。

国家天文台への統合

2001年、中国科学院は天文学研究機関の再編を決定し、中国科学院国家天文台が創設されると、北京天文台は他の機関と共に国家天文台へ統合され、独立した機関としての歴史を終えました。

主要な観測施設

北京天文台は、北京市内の本部と、興隆、密雲、懐柔、沙河、天津の5つの観測所で構成されていました。各観測所は、それぞれ特定の天文学分野に特化した観測を行っていました。

北京本部

北京天文台の本部は、中関村に位置していました。観測以外の研究活動、組織運営、機器開発、出版などの業務を担っていました。設立当初は、経済的な制約から中国科学院微生物研究所のビルに間借りしていましたが、1997年に専用の本部ビルが完成しました。2001年に国家天文台に統合された後は、国家天文台の本部となりました。

興隆観測所

興隆観測所は、北京天文台における光・赤外線天文学の観測拠点です。1968年に河北省興隆県に開設され、標高約900mの森林地帯に位置しています。大気の安定性が高く、年間約200夜の晴天が観測できます。当初は、東ドイツ製の望遠鏡やシュミットカメラで観測を行っていました。1989年には、東アジア最大級となる口径2.16mの反射[[望遠鏡]]が完成し、1988年に完成した口径1.26mの赤外線望遠鏡とともに、東アジア有数の光・赤外線天文学の観測拠点となりました。

密雲観測所

密雲観測所は、電波天文学の観測拠点として、北京北部の密雲区に位置しています。周囲を山に囲まれており、外部からの電波障害を防ぐ環境が整っています。1967年に電波干渉計が設置され、太陽の電波観測を開始しました。1983年には、開口合成電波望遠鏡（MSRT）が完成し、北天の電波源探索に大きな役割を果たしました。その後、1990年には直径15mの電波望遠鏡が設置され、後に直径50mのパラボラアンテナに更新され、パルサーの電波観測や探査機との通信にも利用されました。

懐柔観測所

懐柔観測所は、太陽物理学の観測拠点として、北京市北部の懐柔区に位置しています。懐柔水庫の畔に建設され、安定したシーイングを確保しています。1984年に口径35cmの太陽磁場望遠鏡が設置され、太陽の磁場ベクトルや視線速度を測定しています。1990年には、口径60cmの多波長同時観測太陽望遠鏡も導入され、太陽の多様な観測データを取得しています。

沙河観測所

沙河観測所は、北京天文台で最初に設置された観測拠点です。当初は、正確な時刻の測定や測地観測を行う報時所として機能しました。その後、太陽電波観測にも利用され、1958年の日食観測で使用したセンチ波望遠鏡や、国産の電波望遠鏡が設置されました。1980年代には、太陽の高速電波観測機構が構築されましたが、電波障害が深刻化したため、観測設備は懐柔観測所へ移設されました。2005年、沙河観測所は教育普及用の施設として生まれ変わりました。

天津緯度観測所

天津緯度観測所は、国際緯度観測所と同緯度に建設された、緯度観測を専門とする施設です。1958年に開設され、当初は紫金山天文台の附属施設でしたが、後に北京天文台に組み込まれました。1970年代には、国産の真空写真天頂筒を導入し、地球の自転観測に参加しました。1980年代には国際極運動観測事業にも参加しましたが、1997年に観測を終了しました。

まとめ

北京天文台は、中国の天文学発展に大きく貢献した研究機関です。その設立から国家天文台への統合まで、様々な観測施設を建設し、数多くの研究成果を挙げてきました。現在では、各観測所は国家天文台の一部として、新たな観測と研究に活用されています。

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