方国珍

方国珍（ほう こくちん、1319年 - 1374年）は、元末の混乱期に浙江省で反乱を起こした指導者の一人です。台州黄巌県の出身で、その生涯は激動の時代を象徴しています。

反乱の勃発

方国珍はもともと塩の密売に携わっていましたが、至正8年（1348年）に海賊との繋がりを疑われ、讒言を受けたことがきっかけで、弟の方国瑛とともに数千の民衆を率いて反乱を起こしました。これは、元末の各地で頻発した反乱の先駆けとなりました。

元朝との攻防

元朝は反乱鎮圧のため討伐軍を派遣しましたが、方国珍軍はこれを打ち破り、江浙行省の参知政事ドルジバルを捕虜にするなど大きな戦果を挙げました。元朝は方国珍を懐柔するため県尉の役職を与えましたが、方国珍はその後も反旗を翻し、再び送られた討伐軍も撃退、江浙行省左丞相ボロト・テムルを捕虜としました。その後も元朝は官職を与え懐柔を試み、その度に方国珍の官職は上昇し、最終的には江浙行省左丞相・衢国公にまで上り詰めました。

群雄割拠の時代

当時の中国は、元朝の支配力が衰退し、各地で群雄が割拠する状況でした。方国珍が勢力を拡大していた頃、白蓮教の教祖であった韓林児は朱元璋によって殺害され、朱元璋は最大の敵であった陳友諒を滅ぼし、江南では張士誠と方国珍のみが残る状況でした。朱元璋は1366年11月に張士誠が守る平江路を包囲し、1367年9月に陥落させ、張士誠を殺害しました。

朱元璋への降伏

張士誠を失った後、方国珍は朱元璋に対抗できず、朱元璋の部下である湯和の討伐を受け、海上へ逃れましたが最終的に降伏しました。降伏の際、方国珍は自身の名前である「国珍」が朱元璋の字である「国瑞」や、朱元璋の父の諱である「世珍」に触れることを避けるため、「谷貞」と改名しました。その後、名目上の役職として広西行省左丞相を与えられ、1374年3月に応天府で死去しました。方国珍は、朱元璋と争った群雄の中で唯一、天寿を全うした人物となりました。

その後の歴史

方国珍を降伏させた朱元璋は、元朝に対する北伐を敢行し、自身は皇帝に即位して明を建国しました。これにより、中国は明による統一時代へと移行しました。

方国珍の人物像

方国珍は、その行動から、天下を狙うような野心家ではなかったと考えられます。彼は、朱元璋や陳友諒などの群雄と友好的な関係を保ち、決定的な敵対関係を築くことを避けました。これは、方国珍が成り行きに身を任せ、争いを好まない人物であったことを示唆しています。彼の生き方は、元末の混乱期における地方勢力の複雑な動向を物語る一例として、歴史の中で重要な位置を占めています。

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