方衣

方衣（ホンイ）は、台湾の山地民族（通称高砂族）の間で広く着用されている、独特な形状の袖なし上着です。その特徴は、中国風の盤領や垂領とは異なり、野生の苧麻布を二幅使い、背と脇のみを縫い合わせて作られた、前開きのシンプルな構造にあります。

この形状は、日本の古来の千早（現代神事のものとは異なり、「手無し」とも呼ばれた袖なしのシンプルなもの）に類似しており、非常に簡素で機能的なデザインと言えるでしょう。方衣は、その構造上、腕が露出してしまうため、着用時には袖套（ソデトウ）と呼ばれる独立した腕覆いを併用するのが一般的です。袖套は、単に腕を覆うだけでなく、民族ごとの独特な装飾や素材が用いられることが多く、その文化的な多様性を示す重要な要素となっています。

特に有名な袖套としては、ツォウ族のものが挙げられます。彼らの袖套は、鹿皮を素材とし、両袖を紐でつなげ、手の甲を覆う手甲のような形状をしている点が特徴です。これは、山地での活動における機能性を重視したデザインであると考えられます。また、タイヤル族の袖套「クージョ」も非常に有名です。「クージョ」は、綿の一枚布の両端を約45cmほど筒状に縫い、型と袖口に精緻な刺繍を施したものです。この刺繍は、民族の伝統的な文様や個人の所属を表す意味合いを持つとされています。

「クージョ」は、その美しいデザイン性から、日本でもアジア諸地域の輸入雑貨や衣料品を扱う専門店などで入手可能です。これらの多くは、輸出向けに作られたものであり、観光客向けに販売されています。しかし、そのデザインは、タイヤル族の伝統的な美意識を今に伝えるものであり、文化的価値も高いと言えるでしょう。方衣と袖套は、台湾の山地民族の生活や文化を象徴する、重要な衣服であり、その多様な形態は、それぞれの民族の歴史や環境に適応してきた証と言えます。これらの衣服を通して、私たちは台湾の山地民族の文化を深く理解する一助となるでしょう。

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