日下部甲太郎

日下部 甲太郎

日下部 甲太郎（くさかべ こうたろう、1926年（大正15年）9月1日 - ）は、日本の環境技官、厚生官僚であり、公園行政分野で顕著な功績を残しました。環境庁で参事官や公害研修所長を務めたほか、退官後は日本環境協会や国立公園協会などの要職を歴任。日本の自然保護行政の発展、自然に関する調査研究の推進、そして人々が自然と触れ合う機会の創出に長年にわたり多大な貢献をしました。

来歴

兵庫県出石町出身の両親のもと、東京で生まれ育ちました。幼少期は病弱だったといいますが、昭和初期の登山ブームの中で植物や山を愛した父親にしばしば山に連れていってもらった経験が、体を丈夫にし、山への愛情を育む契機となりました。この山での体験が、後のキャリアに深く影響を与えたと考えられます。

学生時代は、作家である宮沢賢治への関心から東北地方に憧れを抱き、賢治の故郷である花巻市にも比較的近い仙台の旧制第二高等学校に進学しました。二高を卒業後、一年間の浪人生活を経て、東京大学農学部林学科へ進学します。特に「森林風致論」の講義に興味を惹かれたことが、同学科を選んだ理由の一つでした。東大では、同期に塩田敏志や前野淳一郎らがいます。大学では造園研究室に所属し、講師の小寺駿吉、後に助手に就任した鈴木忠義、そして森林利用学教室の加藤誠平といった面々から薫陶を受けました。学生時代には、営林署でアルバイトとして働き、測量や林道設計の実務経験を積む機会を得ました。大学2年の夏休みには、北海道庁のアルバイトとして大雪山やニセコアンヌプリなど道有林を訪れ、北海道の自然に触れました。この経験が契機となり、1951年3月の卒業後、同年4月には北海道庁に就職し、林務部林政課に配属されます。

官僚としての経歴

北海道庁での勤務を経て、1959年5月に厚生省へ移籍。大臣官房国立公園部計画課に配属されました。以降、厚生省では国立公園行政に深く関わり、国立公園部計画課長補佐（1962年5月）、国立公園部管理課長補佐（1967年8月）といった要職を歴任し、国立公園の管理部門に10年以上在籍しました。1971年7月には宮内庁へ転じ、管理部庭園課長を務めますが、3年後の1974年10月には環境庁自然保護局計画課長に就任。再び自然保護行政の最前線に戻りました。環境庁では、長官官房参事官（1978年1月）、長官官房審議官（1980年4月）、公害研修所所長（1982年5月）などを歴任し、1984年9月に退官しました。

退官後の活動

官職を辞した後も、日下部氏は自然保護や公園関連分野での活動を続けました。1984年11月には日本環境協会専務理事に就任。その後、国民休暇村協会常務理事（1989年11月）、国立公園協会理事長（1992年12月）を歴任しました。国立公園協会では、1997年7月からは会長を務め、2000年7月に退職するまで協会の中心的存在として活動しました。これらの団体の役職を通じて、自然保護意識の啓発や国立公園の適正な利用促進に尽力しました。また、自然環境保全審議会、小笠原振興審議会、林政審議会、東京都公園審議会など、様々な審議会の委員や専門委員としても、行政や政策への助言を行いました。

貢献と受賞

日下部甲太郎氏の長年にわたる日本の自然保護行政への貢献は国内外で高く評価されています。1996年には国際自然保護連合（IUCN）国立公園保護委員会よりパッカード賞を、2000年には日本造園学会より上原敬二賞を受賞しています。これらの賞は、氏が果たした自然保護、公園行政、そして造園分野への顕著な功績を称えるものです。

日下部氏は、幼少期に育まれた山への愛着を出発点とし、官僚、そして退官後の団体役員として、日本の豊かな自然を守り、後世に引き継ぐための基盤整備に生涯を捧げました。

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