塩田敏志

塩田敏志氏（1928年、昭和3年生まれ、2019年、平成31年没）は、日本の造園学および林学の分野で重要な足跡を残した学者、そして造園家です。特に森林景観やその計画に関する専門家として知られ、多岐にわたる活動を通じて日本の自然環境の保全と活用、そして後進の育成に尽力しました。

学問的背景と教育者としてのキャリア
東京大学農学部で林学を修めた後、法政大学では建設工学科の建築学を学び、両分野の視点を融合させた研究姿勢を築きました。東京大学大学院修士課程（建築学専攻）修了後、臼倉健之一級建築士事務所での勤務を経て、東京農業大学造園学科および法政大学建築学科で非常勤講師を務めました。1961年、東京大学農学部林学科に助手として着任。ここでは、本多静六や田村剛といった先達の系譜を受け継ぎ、造園学および森林風致計画の研究・教育に専念しました。当時、造林学講座の一角に位置する非公式な造園学教室という立場であったため、助手として長く勤務されましたが、その弛まぬ努力と研究成果は高く評価され、1981年には東京大学農学部に森林風致計画学講座が新設される運びとなり、初代担任として教授に昇進しました。これにより、この分野の学問的地位を確立する上で決定的な役割を果たしました。その後、東京大学を退官し、東京農業大学農学部造園学科の教授も務め、大学院でも指導にあたり、教育者として多くの専門家を育成しました。

実務への貢献
学術研究と並行して、実際の造園・景観計画にも深く関わりました。代表的な業績としては、東京都心部において象徴的な景観軸を形成する東京都道404号皇居前東京停車場線、いわゆる行幸通りの改良修景計画があります。また、広大な森林を生かした自然公園である道立自然公園野幌森林公園の計画にも深く関与しました。これらのプロジェクトは、都市における緑の重要性や、自然環境を保全しつつ人々の利用を考慮した計画手法を示す好例となっています。

森林公園計画論の展開
塩田氏の学術的な功績を示す重要な論考の一つに、1973年に日本観光協会が刊行した『観光レクリエーション施設の計画』における森林公園に関する記述があります。この中で氏は、代々木公園、野幌森林公園、戸隠森林植物園、武蔵丘陵森林公園という、都市公園から自然公園、自然休養林、国営公園に至るまで、多様な性質を持つ4つの事例を詳細に分析し、森林公園の計画論を展開しました。これらの事例全てに塩田氏自身が直接的または間接的に計画者として関与していたことは、氏の理論が豊富な実務経験に裏打ちされていたことを示しています。氏は、森林公園が多義的な存在であると指摘し、その設定には1966年の明治百年記念事業における記念森林公園・明治の森の閣議決定や、1971年の生活環境保全林整備事業といった国の政策が大きな根拠となったことを論じました。これらの分析は、日本の森林公園制度の発展を理解する上で重要な視点を提供しています。

学会活動と公職
塩田氏は、日本造園学会において評議員、理事、副会長、そして会長と要職を歴任し、同学会の発展と造園学の研究振興に大きく貢献しました。また、科学技術庁、資源エネルギー庁、環境庁、国土庁など、国の重要な審議会や委員会の専門委員・顧問を務め、造園学や森林風致計画の知見を行政や政策決定に反映させる役割を果たしました。宮城県多賀城跡の調査研究指導委員会委員、東京都や大阪市主催の計画コンペティション審査委員長を務めるなど、その専門家としての高い見識は広く社会に求められました。さらに、日本学術会議会員としても、日本の学術全体の発展に寄与しました。

主な著書・論文
塩田氏は多数の学術論文や著述を発表し、専門分野における理論的基盤を築くと同時に、幅広い層への啓蒙にも努めました。主なものとしては以下が挙げられます。

『現代林学講義. 8.』(共著)
『森林景観コントロール・システムの実用化に関する研究』
『緑視状況把握モデルの試案』
『造園と木材利用』
『自然利用の展開と展望 -- わが国の自然保護と自然公園利用の接点を求めて』
『環境情報処理と造園計画 : 景観デザインにおける電算機適用の展望』
『森林風致計画論策』シリーズ
『野外レクリェーション需要の増大と自然の保全』

これらの著作は、氏の研究対象が森林景観、計画手法、自然利用、環境保全、そしてそれを支援する技術に至るまで多岐にわたることを示しています。

塩田敏志氏は、造園学と林学、特に森林風致計画学の分野における日本の第一人者として、生涯を学問の探求と実践、そして次世代の育成に捧げました。その業績は、日本の豊かな自然環境を保全し、人々の生活に活かすための計画思想と技術の発展に不可欠な貢献をしています。

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