日吉台遺跡群

日吉台遺跡群について

日吉台遺跡群は、神奈川県横浜市港北区日吉の台地上に広がる複数の遺跡の総称です。この地域は、慶應義塾大学日吉キャンパスを中心に、弥生時代や古墳時代の集落跡、古墳群、横穴墓、そして近代の戦争遺跡である日吉台地下壕などが含まれる複合遺跡群として知られています。

地理的特徴

日吉台は多摩丘陵の一部であり、下末吉台地が多摩川、矢上川、鶴見川によって区切られた東端に位置します。この台地の範囲は明確ではありませんが、慶應義塾大学は、地形的な観点から、大学キャンパス一帯を下末吉面、日吉駅西側を武蔵野面と区分しています。日吉台は、平坦な段丘面が広がる一方で、谷戸が入り込み複雑な地形を形成しています。また、日吉台の北側には東西に伸びる矢上谷戸があり、この谷戸によって分けられた北側の台地は矢上台と呼ばれ、慶應義塾大学矢上キャンパスが設置されています。

遺跡群の形成

日吉台とその周辺の加瀬台、矢上台には、古くからの遺跡が数多く分布しており、慶應義塾大学を中心に考古学的な調査が行われてきました。これらの遺跡群を包括的に捉えるため、同大学の安藤広道教授によって「日吉台遺跡群」という概念が提唱されました。調査の結果、日吉台は20の地区に区分され、各地区の遺跡の種類や分布状況が詳しく研究されています。

調査の歴史

1920年代後半から1930年代にかけて、東横線日吉駅の開業と慶應義塾大学のキャンパス建設に伴い、多数の遺跡が発見されました。1930年には、日吉台1号墳が発見され、弥生土器も採取されたことから集落遺跡の存在も示唆されました。その後、古墳の発掘や大学キャンパス建設に伴い、弥生時代の竪穴建物跡が多数発見され、調査・研究が進められました。

1936年には、大規模な竪穴建物跡が発見され、一部は現地保存されています。1940年代には、藤原工業大学の仮校舎建設に伴う調査で、さらに多くの竪穴建物が発見されました。しかし、太平洋戦争勃発により調査は中断し、キャンパスは軍事施設として利用されました。

戦後、キャンパスが返還された後、施設の復旧が優先され、遺跡調査への関心は低下しました。1950年代から60年代にかけて、小規模な調査は行われましたが、1970年代以降は遺跡が破壊されたという認識が広まり、大規模な調査は行われなくなりました。この状況は2000年代初頭まで続き、2005年以降、安藤広道教授らによって再調査と過去の資料の整理が行われました。

2006年以降、大学施設の建設に伴い、発掘調査が再開され、弥生時代から古墳時代にかけての遺構が数多く発見されています。また、日吉台地下壕などの近代戦争遺跡も調査対象となっています。

主な遺跡

日吉台遺跡群は、横浜市教育委員会の文化財地図において複数の埋蔵文化財包蔵地に分けられていますが、実際の遺跡の分布は地図の範囲外にも広がっています。主な遺跡としては、以下のようなものがあります。

弥生～古墳時代の集落遺跡: 慶應日吉キャンパス内外で広く確認されており、特に弥生時代後期には環濠を備えた大規模な集落が存在したと考えられています。
港北区No.45遺跡（日吉台遺跡）
港北区No.46遺跡
港北区No.47遺跡（日吉遺跡または日吉町遺跡）
港北区No.48遺跡（日吉台遺跡）
港北区No.49遺跡（日吉台遺跡）
港北区No.50遺跡
港北区No.51遺跡（欠山遺跡）
港北区No.54遺跡（諏訪下北遺跡）
港北区No.126遺跡（日吉台遺跡）
港北区No.127遺跡（諏訪下遺跡）
日吉台古墳群: 日吉台の範囲外にも分布しており、以下の古墳が含まれます。
港北区No.36遺跡（日吉矢上古墳）
港北区No.43遺跡（観音松古墳）
港北区No.45遺跡（日吉台1号墳）
港北区No.48遺跡（日吉台2号墳）
港北区No.49遺跡（日吉台3号墳）
港北区No.51遺跡（日吉台5号墳）
港北区No.54遺跡（円墳跡）
港北区No.126遺跡（日吉台4号墳）
浅間山古墳
横穴墓: 複数の横穴墓が確認されています。
港北区No.52遺跡
港北区No.53遺跡
港北区No.54遺跡
港北区No.127遺跡
中世遺跡: 矢上城や中田加賀守館などの遺跡も含まれます。
港北区No.48遺跡（矢上城）
港北区No.49遺跡（中田加賀守館）
近代戦争遺跡群: 日吉台地下壕などの戦争遺跡が確認されています。
港北区No.246遺跡（海軍省人事局地下壕）
港北区No.247遺跡（軍令部第三部待避壕）
港北区No.248遺跡（連合艦隊司令部地下壕・航空本部等司令部地下壕）
港北区No.249遺跡（艦政本部地下壕）

まとめ

日吉台遺跡群は、古代から近代にかけての多様な時代の遺構が残る貴重な遺跡群です。慶應義塾大学による調査の再開により、その歴史的価値が再評価されています。しかし、遺跡の多くは既に破壊されており、残されたわずかな箇所を注意深く調査していく必要があるとされています。

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