日大紛争

日大紛争とは

日大紛争は、1968年から1969年にかけて日本大学で発生した、学生運動による大学紛争です。学生側からは「日大闘争」とも呼ばれています。

この紛争は、大学側の不正経理問題が発覚したことをきっかけに、学生たちが大学の民主化や教育環境の改善を求めて立ち上がったもので、全国の大学紛争の中でも特に大規模なものとして知られています。

紛争の背景

1960年代後半、日本では大学進学率が急上昇し、大学教育の大衆化が進んでいました。日大もその流れに乗り、学生数が急増しましたが、教育環境や福利厚生はそれに追いついていませんでした。

当時の日大は、保守的な経営方針のもとで運営されており、学生の意見を十分に反映するシステムがありませんでした。学生たちは、劣悪な教育環境、授業料の値上げ、大学側の抑圧的な姿勢に不満を募らせていました。大学側は、学生の自治運動や学園の民主化を求める動きを厳しく弾圧し、体育会系の学生を動員して監視・弾圧を行っていました。

紛争の経過

1968年1月、日大の教授が裏口入学で多額の謝礼金を得ていたことが発覚し、同年4月には、大学に巨額の使途不明金があることが国税局の調査で明らかになりました。この事態に、学生たちの怒りが爆発しました。

4月23日、文理学部学生会が教授会に公開質問状を提出したことを皮切りに、学生たちは大学当局への抗議活動を開始しました。5月27日には、各学部の有志学生が「日本大学全学共闘会議（日大全共闘）」を結成し、大学当局に対し、理事の総退陣、経理の全面公開、使途不明金に関する話し合いを要求しました。

大学側は、これらの要求を拒否し、学生たちとの対立が激化しました。6月11日には、大学側が体育会系の学生を動員して集会に参加した学生を襲撃し、多数の負傷者が出ました。さらに、大学当局の要請で警視庁機動隊が投入され、学生たちは大学当局への不信感を強め、無期限ストライキに突入しました。

その後、日大全共闘はバリケードを築き、大学当局との交渉を続けました。9月4日には、機動隊による強制排除が行われ、その際、機動隊の巡査部長が学生が落としたコンクリート片により殉職するという痛ましい事件も発生しました。

9月30日、大学側は学生たちの要求を受け入れ、「全学集会」を開催しました。しかし、大学側は学生たちとの約束を反故にし、10月2日には大衆団交を撤回。これに対して学生たちは失望し、運動は急速に衰退しました。

10月には、日大全共闘のリーダーである秋田明大らが逮捕され、学生たちは大学当局の圧力と世論の批判にさらされ、孤立を深めていきました。1969年2月には、日大全共闘は学内の拠点を失い、運動は事実上終息しました。

紛争の影響

日大紛争は、学生運動が激しかった1960年代後半の日本の大学紛争を代表する出来事の一つとして、社会に大きな影響を与えました。この紛争は、大学の自治、教育のあり方、学生の権利など、様々な問題を提起し、その後の大学改革に一定の影響を与えました。

また、日大紛争は、大学における権力構造、学生運動の限界、そして社会の矛盾を浮き彫りにしました。この紛争は、多くの学生たちの人生に影響を与え、彼らの記憶の中に深く刻まれています。

その後

紛争後、日大では理事の交代が行われましたが、根本的な改革は進まず、大学の私物化問題はその後も繰り返されています。約50年後の2021年には、当時の理事長による大学私物化事件が発覚し、再び社会の批判を浴びました。

まとめ

日大紛争は、1960年代後半の日本の社会状況を背景に、大学の不正と学生たちの不満が複雑に絡み合って起きた事件でした。この紛争は、大学の民主化を求める学生たちの運動が、社会の矛盾と権力の壁に阻まれた現実を示しています。この事件は、現代の大学の在り方を考える上でも重要な教訓となっています。

参考資料

小熊英二 著『1968』
荒川章二「「1968」大学闘争が問うたもの : 日大闘争の事例に即して」
秋田明大編　『大学占拠の思想―日大生の永久闘争宣言』
眞武善行『日大全共闘　1968　叛乱のクロニクル』

これらの資料を読むことで、日大紛争についてさらに詳しく知ることができます。

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