日本の機械式暗号

日本の機械式暗号

日本の機械式暗号は、戦前・戦中の日本において、軍や外務省などの政府機関で機密情報を保護するために開発・運用された暗号システムです。これらの暗号機は、タイプライターのような外見を持ち、複雑な機構によって原文を暗号化し、また複合化するものでした。本稿では、これらの暗号機の種類、特徴、そして解読を試みた国々の状況について詳しく解説します。

暗号機の名称と分類

日本の陸軍と海軍は、それぞれ独自に暗号機を開発し、以下のような規則に従って制式名称を付与しました。

• - タイプライター形式の暗号機: 制式年の下2桁に「式印字機」を付与
• - ランプボード形式の暗号機: 制式年の下2桁に「式換字機」を付与
• - 手動式ストリップ暗号装置: 制式年の下2桁に「式換字盤」を付与

また、外務省は海軍から技術供与を受けつつも、「暗号機〇型」という独自の名称を用いていました。

各機関で使用された主な暗号機

以下に、戦前・戦中に日本の外務省、陸軍、海軍で使用された主な暗号機を、アメリカ軍によるコードネームとともに示します。

外務省

• - 暗号機A型（通称:九一式欧文印字機）〔レッド暗号〕
• - 暗号機B型（通称:九七式欧文印字機）〔パープル[[暗号]]〕

海軍

• - 九一式印字機（武官用）〔オレンジ暗号〕
• - 三式換字機〔グリーン暗号〕
• - 九七式印字機一・二型（艦載用）〔ジェイド暗号〕
• - 九七式印字機三型（武官用）〔コーラル暗号〕
• - 三式細棒式換字盤（三式SB盤とも呼ぶ）：ストリップ式暗号

陸軍

• - 九二式印字機
• - 九七式印字機（海軍・外務省のものとは異なる）
• - 一式一号印字機：九七式の改良型
• - 自動印刷無線電信機：オンライン型テレタイプ暗号機、資材不足により実用化されず

日独海軍

• - チルピッツ：日独海軍共同通信用エニグマ暗号機〔オパール暗号〕

アメリカ軍によるコードネーム

アメリカ陸軍は、日本の機械式暗号に対して、虹の色や宝石に由来するコードネームを付与しました。米海軍も独自にコードネームを付与し、解読を試みました。

米陸軍のコードネーム

• - レッド暗号 (Red)
• - オレンジ暗号 (Orange)
• - グリーン暗号 (Green)
• - パープル[[暗号]] (Purple)
• - コーラル暗号 (Coral)
• - ジェイド暗号 (Jade)
• - サファイア暗号 (Sapphire)
• - オパール暗号 (Opal)

これらの暗号機は「メイズ暗号（Maze、迷路）」という総称コードネームで呼ばれることもありました。

米海軍のコードネーム

• - IKA-machine
• - M-1
• - M-2
• - M-3 (A-machine)
• - M-4
• - M-5 (B-Machine)
• - M-8
• - M-9

暗号の分類

各暗号機は、換字式暗号や転置式暗号などの原理に基づいて分類されます。

解読を試みた国

アメリカ、イギリス、ドイツ、ソ連などの各国が日本の暗号解読を試み、特にアメリカはレッド暗号、パープル[[暗号]]、コーラル暗号、ジェイド暗号の理論解読に成功しました。

外務省の機械式暗号の歴史

外務省の機械式暗号は、新旧の暗号を併用するミスが頻発し、旧暗号の解読から新暗号が解読されるという事態が発生しました。

暗号機開発の歴史

• - 1921年: 米国が日本の外交電報を解読（簡単なコードブック）
• - 1928年: 海軍が機械暗号化計画を立案
• - 1930年: ロンドン軍縮会議で試作暗号機を使用（9台のみ）
• - 1931年: 海軍が九一式印字機を制式化、外務省は暗号機A型と命名
• - 1932年: 九一式印字機の開発者への叙勲上奏文を作成
• - 1934年: 英国がレッド暗号の解読に成功
• - 1935年: 海軍が次世代暗号機の設計を開始
• - 1936年: 米陸軍がレッド暗号の模造機を完成
• - 1937年: パープル[[暗号]]（九七式印字機、暗号機B型）が完成
• - 1938年: ドイツがレッド暗号の模造機を完成
• - 1939年: パープル[[暗号]]の運用を開始、米陸軍が解読に着手
• - 1940年: パープル[[暗号]]の解読作業が転換期
• - 1941年: 米陸軍がパープルの模造機を完成、多くの暗号を解読
• - 1945年: 米軍がベルリンの日本大使館からパープル[[暗号]]機のスイッチ部分を捕獲

暗号漏洩による事件

• - 1941年12月、真珠湾攻撃の対米覚書文書の手交が遅延。
• - 1941年末、ビルマ自治政府のウー・ソオ首相が英国官憲に逮捕された事件。
• - ドイツの視察報告、軍需生産に関する会談、ウラン鉱石採掘に関する報告などが解読された。

暗号機の研究と特許

海軍技術研究所の電気研究部が暗号機の開発、製造、改造を担っていました。田辺、鈴木技師らの報告論文は所在不明です。

主な開発された暗号機

• - 欧文タイプライター式暗号機（ゼンマイ動力）
• - 試製電気式暗号機（電磁石動力）
• - 暗号構成器（邦文タイプライター用）
• - 羅馬字式暗号器（欧文タイプライター式）
• - 九一式印字機（欧文タイプライター式暗号機の改名）

暗号機の製造と修理

技術研究所、呉工廠、横須賀工廠、佐世保工廠などが暗号機の製造、修理を行いました。

昭和天皇の行幸

1931年10月、昭和天皇が海軍技術研究所を行幸し、暗号機を視察しました。

陸軍暗号機

陸軍でも、第五陸軍技術研究所を中心に暗号機の研究開発が行われました。

研究嘱託

様々な大学や民間企業から研究者が研究嘱託として任命されました。

参考文献

国会図書館、昭和館、靖国偕行文庫、アジア歴史資料センターなどの施設で関連資料を閲覧することができます。

その他の暗号

太平洋戦争中には、日本陸海軍の暗号だけでなく、他の日本政府機関で使用された暗号も解読対象となりました。

日本陸軍の暗号

陸軍は、各暗号書の識別符（4桁数字）を秘匿せず電文に付与していたため、連合軍はそれをコードネームとして利用しました。暗号書は1943年6月に四号、1945年に五号に切り替えられました。捕獲された暗号書により、一部の暗号は容易に翻訳可能となりました。

日本海軍の暗号

日本海軍は、多くの暗号書を運用しており、それぞれにJNナンバーが付けられました。これらの暗号書は、通信系統を間違って命名されたり、後にキャンセル、分割、統合、再ナンバリングされたりしました。

その他日本政府機関の暗号

大東亜省や領事館などでも独自の暗号が用いられました。

関連文献

様々な文献が、暗号解読の歴史や技術に関する詳細な情報を提供しています。

関連項目

関連する項目として、日本の機械式暗号、海軍暗号書D、機械式暗号、暗号史、暗号、遣独潜水艦作戦などが挙げられます。

以上が、日本の機械式暗号に関する詳細な解説です。

もう一度検索