日本の法令の基本形式

法令の基本形式

日本の法令は、明確に定められた法律があるわけではありませんが、官報に掲載される際の長年の慣例に基づき、一定の基本的な形式や構造が確立されています。この基本形式は、法令だけでなく、公文書や民間の各種規則などでも類似の体裁が採用されることがあります。

法令、特に法律の基本的な構造は、一般的に以下の要素から成り立っています（ただし、前後の公布文、法律番号、署名・連署は法令本体の一部ではありません）。

公布文
法律番号
題名
目次
本則
附則
別表等
署名・連署

以下に、これらの主要な構成要素について詳述します。

各構成要素の詳細

公布文

法令を公布する旨を表明する文書であり、公布時に法令の冒頭に置かれますが、法令自体の一部ではありません。日本国憲法下では、法律、政令、条約の公布は天皇が行うため、公布文には天皇の親署と御璽、公布年月日、内閣総理大臣の副署が付されます。旧憲法下の上諭に相当しますが、日付の意味合いが異なります。

法令番号

法令の識別を目的として、題名の前に付けられる番号です。法律には法律番号、政令には政令番号などが用いられます。これは法令本体の一部ではありません。

題名

その法令が扱う分野や内容を示す名称であり、法令の一部を構成します。昭和22年頃以前には題名がない法律もあり、その場合は「件名」と呼ばれる公布文中の表現が便宜的に名称として使われました（例：「失火ノ責任ニ関スル法律」）。昭和23年以降は新たな法律・政令には必ず題名が付されています。

名称の慣例として、日本国憲法制定までには法律の題名に「法」または「法律」を含むのが一般的となりました。唯一の例外は「皇室典範」であり、これは日本国憲法第2条によって題名が定められた特別な例です。その名称については制定時に議論がありましたが、最終的に従前の「典範」という言葉が引き継がれました。

前文・制定文

前文: 本則の前に任意で置かれ、法令の趣旨や目的、基本的な立場を示す文章です。日本国憲法や教育基本法が代表例です。前文は法令の一部であり、改正には法改正の手続きが必要です。
制定文: 法律の全部改正を示す場合や、政令・条例の制定根拠を示す場合などに用いられます。府省令の場合は法令番号の次に置かれますが、これは法令の一部ではありません。

条文が多い法令に置かれ、全体の構成を把握しやすくするためのものです。本則や附則の区分、章や節ごとの条文の範囲が示されます。目次も法令の一部として扱われる場合がありますが、別表などは目次には含まれません。

本則

法令の本来的な目的である実質的な規定が置かれる部分です。多くの条文がある場合は、内容に応じて「編」「章」「節」「款」「目」といった階層的な区分が設けられ、それぞれに標題が付されます。

条

本則の基本的な単位です。原則として「見出し」「条名」「項」から構成されますが、古い法令などでは見出しや条名がないこともあります。項の中に「号」が設けられることもあります。

見出し: 条名の手前に、その条の内容を簡潔に示す語句で、「（○○）」のように括弧で括られます。これも法令の一部です。理解や検索の便のために付けられ、複数の条に共通の見出しが付くこともあります。
条名: 条を特定するための名称で、通常は「第○条」のように番号で示されます。新しい条を挿入する際は「第○条の○」といった枝番号が用いられます。条を削除する場合は中身をなくし「第○条削除」と表記します。他の法令からの引用があるため、枝番号や削除が生じても、通常は条番号を繰り上げたり繰り下げたりする改番は行いません。ただし、大規模な改正時や、法令の冒頭に条を追加するなどの例外的な場合には改番が行われることがあります。
* 項: 条の中に必ず一つ以上置かれる要素です。句点で区切られた文章は前段、後段と呼ばれ、「ただし」で始まる部分はただし書と呼ばれます。通常、第2項以降は項番号がアラビア数字で付けられますが、条名がない場合は第1項から番号が付くことがあります。項を挿入・削除した場合、以降の項番号は自動的に繰り下がり・繰り上がりが行われます。

号

項の条文中で、事物の名称などを列記する際に用いられます。冒頭に漢数字などで号名が付されます。号の中をさらに細分化する場合は、「イ、ロ、ハ…」「(1)、(2)、(3)…」などが用いられます。号による列挙部分を除いた条文部分は「各号列記以外の部分」と呼ばれます。

附則

本則に付随して必要となる規定（施行期日、経過措置、関連法令の改廃など）が置かれる部分です。簡単な場合は「項」のみで構成されますが、複雑な場合は「条」で構成されることもあります。附則中の条や項を引用する際は、条名や項番号の前に「附則」と冠するのが通例です。

別表等

法令の中で表や図などを用いる場合に、法令の末尾に「別表」などの形で置かれることがあります。別表が複数ある場合は「別表第○」のように番号が付され、参照元の条が示されることもあります。別表のほか、「様式」「図」「別記」なども同様に置かれます。

署名・連署

法律や政令の末尾に、担当の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署します。これも法令本体の一部ではありません。主任の大臣が複数いる場合は建制順に署名が行われます。内閣総理大臣が主任大臣でもある場合は、最初の署名のみを行い、最後の連署は行われません。

もう一度検索