日本国 (山)

日本国（にほんこく）

日本国（にほんこく）は、新潟県村上市と山形県鶴岡市との県境に位置する山です。別名を石鉢山（いまくさやま）とも称されます。標高はさほど高くないものの、その名称が日本の国号と同じであることから、古くから人々の注目を集めてきました。

歴史的な記述

正保2年（1645年）に作成された庄内絵図には、現在の日本国にあたる地域が「居熊沢山越後境」と見えます。この記録は、この山が江戸時代初期には既に越後国と出羽国の境として認識されていたことを示唆しています。

山名の由来を巡る諸説

日本国というユニークな山名の起源については諸説あり、定説は確立していません。古くからの伝承や文献に基づき、いくつかの説が語り継がれています。

鷹献上伝承

最も広く知られているのは、鷹に関する伝承です。『温海町史』など複数の資料に記されているところでは、かつてこの地で捕獲された鷹が、時の領主を通じて将軍に献上されました。その鷹が「日本無双の鷹」として高く評価されたことから、その捕獲地である山が「日本国山」と名付けられたと伝えられています。江戸時代の鶴岡藩が幕府に提出したとされる文書にも、同様の命名由来が記されているとされます。しかし、この伝承における鷹の捕獲者、献上した領主、献上を受けた将軍など、具体的な人物名は明らかになっていません。

また、『出羽国風土略記』には、元和元年（1615年）に吹浦（現在の山形県酒田市）で「黄鷹」（その年に生まれた鷹）が捕獲され、領主から徳川家康に献上されたという記録が存在します。この出来事が、日本国山の命名伝承に何らかの影響を与えた可能性も指摘されています。

古代の境界説

山名の由来を飛鳥時代や奈良時代にさかのぼらせる説もあります。歴史家の渡辺勝男氏は、奈良時代初期、慶雲4年（707年）に越後国司となった安倍朝臣眞君が天皇に鷹の羽を献上した史実と、この地の鷹の伝承を結びつけて考察しています。渡辺氏は、当時の大和朝廷にとってこの地が蝦夷勢力との境界であったことを踏まえ、安倍眞君が「ここまでが大和朝廷が治める日本国である」という意味合いで、この山を「日本国」と命名した可能性を提唱しています。しかし、日本の国号として「日本」が公式に使用され始めたのが一般的に720年頃とされることから、それ以前に「日本国」という山名が存在したかについては、慎重な検討が必要です。

なお、宝暦12年（1762年）に記された『出羽国風土略記』には、既に「越後出羽の境に日本国という名の地があったとされるが、今は存在しない」という記述が見られ、江戸時代中期には既にその名称の由来や正確な場所が不明瞭になっていたことがうかがえます。このほかにも、長谷川勲氏の著書『にいがた地名考』では、地元での別名「すり鉢山」に触れつつ、「日本国と蝦夷地の境」を意味するという説や、江戸時代に大代村（現在の村上市）の人物が獲った鷹にまつわる別の伝承なども紹介されており、山名の由来がいかに多様な解釈を含んでいるかがわかります。

複雑な県境

日本国山の特徴の一つに、その県境の複雑さがあります。国土地理院の記録によると、山頂に設置されている三角点は、明治39年（1906年）の設置当時から山形県に位置するとされています。現在の山形県と新潟県の県境は、山頂部分のみが山形県に属し、約4メートルほど新潟県側に食い込んだ形になっています。この山頂部分の地籍は山形県鶴岡市小名部とされています。一方、山頂を除く山の大部分では、分水嶺が県境となっています。これは、山間部の県境が分水嶺を原則とすることが多い中で、頂上部分だけが異なるという珍しいケースです。江戸時代、近隣の鳥海山においても庄内藩と矢島藩の間で山頂の帰属を巡る争いがあり、最終的に庄内藩の領有となった歴史があります。日本国山の県境が現在の形になった背景には、こうした歴史的な経緯や明治維新期における行政的な区分が影響している可能性も考えられます。明治初期の県境設定が人為的だったとする研究者もいますが、日本国山の県境に直接適用されるかどうかは定かではありません。

現代のエピソード

日本国というユニークな名称を持つこの山では、現代においても興味深いエピソードがあります。山開きは、山の標高（一般的に555mとされることが多い）にちなんでか、毎年5月5日に行われるのが恒例となっています。かつて山頂には「日本国征服」と書かれた横断幕が掲げられていました。2013年の山開きでは、登頂者に「日本国征服証明書」を発行する計画が進められましたが、「征服」という言葉が不適切であるとして約45件の抗議が寄せられたため、急遽「日本国登頂証明書」に名称が変更されるという出来事がありました。これは、日本国という名称が持つ象徴性ゆえに、その取り扱いが注目を集める事例と言えるでしょう。

結び

日本国山は、その特異な名称の背後に、古くからの歴史、伝承、そして複雑な地理的・行政的背景を持つ興味深い山です。山名の由来は諸説あり、完全な解明には至っていませんが、鷹献上説や古代の境界説など、日本の国号や古代史、近世の領地争いなど、様々な歴史ロマンを呼び起こします。標高は低いながらも、その名前一つで多くの物語を秘めた、知る人ぞ知る存在と言えるでしょう。

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