日本残酷物語 (映画)

『日本残酷物語』

『日本残酷物語』は、1963年に日本の観客に届けられた一本の記録映画です。新東宝興業の配給により公開されたこの作品は、当時の日本の知られざる側面や、社会が抱える問題を多角的に映し出そうとする試みでした。

カメラが捉えたのは、伝統的な文化の奥深くに根ざす奇妙な習俗と、高度経済成長期を迎えつつあった日本の社会が抱える生々しい現実の両面です。作品内で紹介されるテーマは、多岐にわたります。

伝統文化の側面では、たとえば北海道に古くから伝わるアイヌ民族の重要な儀式である熊まつり、あるいは仏教信仰における究極的な修行形態である即身仏、さらには一般的にはあまり馴染みのない特殊な食文化である「げてもの料理」などが映像化されています。これらは、日本の文化が持つ多様性や、時に不可思議に映る習俗の一端を垣間見せるものでした。

一方、現代社会に焦点を当てたテーマとしては、当時の日本社会において深刻な問題として認識されつつあった麻薬の蔓延、第二次世界大戦を経て日本の国土と人々の心に深く刻まれた原子爆弾による傷跡や影響、外見に対する意識の変化を示す美容整形手術、そして都市の片隅に存在する多様なコミュニティとしてのゲイバーなどが取り上げられました。これらの題材を通じて、急速な社会の変化の中で生じる歪みや、社会の病理、あるいは都市が内包するアンダーグラウンドな文化に光を当てようとしています。

制作を手がけた柴田万三氏は、当初の構想では、暴力団やドヤ街といった、社会のより暗く厳しい側面にもカメラを向けたいと考えていたようです。しかし、様々な状況や事情により、残念ながらこれらのテーマを映像に収めることは難しかったと、後に述懐しています。

また、この映画の公開を間近に控えた時期には、ある特定の場面を巡って大きな問題が発生しました。それは、サリドマイドという薬害によって、生まれながらに体に障害を持った子供たちの姿を捉えた映像でした。この描写に対し、警察当局から児童福祉法に抵触するのではないかという疑いが指摘されたのです。このような事態を受け、制作側は議論を重ねた結果、該当するシーンを自主的に削除するという、苦渋の決断を下しました。このエピソードは、当時のドキュメンタリー映画制作が直面した倫理的な課題や、社会的な圧力の一端を物語るものとして記憶されています。

なお、本作の公開に先行して、平凡社から同名の書籍『日本残酷物語』が1959年から1961年にかけて刊行されていますが、この映画版と書籍版の間には、内容や企画における直接的な関連性は特にありません。また、タイトルに「残酷物語」という言葉を冠している点では、1960年に公開された大島渚監督の『青春残酷物語』や、イタリアのヤコペッティ監督による1962年の記録映画『世界残酷物語』といった、当時の映画界の一つの潮流とも見なせる作品群との関連が指摘されることもありますが、これらとの直接的な制作上の繋がりがあったわけではありません。本作は、あくまで1963年という時代の日本社会を独自に切り取ろうとした作品と言えます。

本作の監督は、中川信夫氏、小森白氏、高橋典氏の三氏が共同で務めました。制作は柴田万三氏が担当しています。また、映画の内容を写真と文章で紹介する『写真でみる日本残酷物語』という書籍が、映画公開と同じ1963年に柴田プロダクションから刊行されています。

もう一度検索