日本経緯度原点

日本経緯度原点

日本経緯度原点とは、日本における測量の基準点であり、東京都港区麻布台二丁目に位置しています。この地点は、かつて東京天文台があった場所に定められ、日本の国土測量における重要な基準点となっています。現在では、国土地理院関東地方測量部が管理する施設であり、港区の指定文化財としても登録されています。

概要

1892年（明治25年）に、参謀本部陸地測量部によって日本経緯度原点が定められました。当時は、帝国大学付属東京天文台（現在の国立天文台の前身）があり、その子午環の中心が原点とされました。しかし、1923年（大正12年）の関東大震災で子午環が損壊したため、その跡地に原点を示す金属標が設置されました。

日本経緯度原点の経緯度数値は、約100年にわたり日本の測地系の基準として用いられましたが、2002年に世界測地系が導入されたことで、地球重心を原点とする数値に変更されました。現在の数値は、2011年の東日本大震災後に改訂されたものです。

測量法では、「測量の原点は、日本経緯度原点及び日本水準原点とする」と規定されており、測量法施行令によって日本経緯度原点の経緯度や原点方位角の数値が定められています。

定義

測量法の定める経緯度・原点方位角

測量法施行令により、日本経緯度原点は「東京都港区麻布台二丁目18番1地内にある日本経緯度原点金属標の十字の交点」と定められています。具体的な数値は以下の通りです。

経度： 東経139度44分28秒8869
緯度： 北緯35度39分29秒1572
原点方位角： 32度20分46秒209（日本経緯度原点から、茨城県つくば市にある観測点への方位角）

これらの数値は、2001年の測量法改正で採用された世界測地系に基づき、最新の宇宙測地技術を用いて測定されたものです。また、2011年の東日本大震災による地殻変動の影響を考慮し、再定義されました。

原点方位角とは、日本経緯度原点と国土地理院敷地内の観測点との方位関係を定めるもので、真北を基準とした角度を示します。

地心直交座標系による定義

国土地理院は、日本経緯度原点の地心直交座標系を以下のように定義しています。この値も東日本大震災の影響により、2011年10月21日に定義し直されました。

X軸： -3959340.203 m
Y軸： 3352854.274 m
Z軸： 3697471.413 m

沿革

日本経緯度原点の決定に至るまでの経緯は、関東大震災による資料の焼失により、不明瞭な部分があると言われています。また、年代についても文献によって一部食い違いが見られます。

前史

明治初年の測量事情

明治初期には、海軍や工部省、内務省など、様々な機関が近代測量を行っていましたが、測量の基準点が統一されていませんでした。海図作成が必要だった海軍は、1871年に水路局を設立し、グリニッジ子午線を本初子午線として採用しました。一方、国内行政のための地図製作を進めていた工部省測量司は、当初富士見櫓を、その後溜池葵町の観象台や旧江戸城本丸天守台を経度の起点としていました。

海軍観象台における観測

1872年、海軍水路寮は芝区飯倉に観測施設を設け、これが海軍観象台の始まりとなりました。1874年には、金星の日面通過の観測が行われ、アメリカの観測隊が長崎で観測した経度を基に、海軍観象台敷地内のチットマン点での経度を測定しました。その後、1882年にチットマン点が測量の基準とされました。

測量組織の再編

1884年、参謀本部に測量局が発足し、内務省地理局の測量業務を引き継ぎました。この年、麻布に一等三角点「東京」が設置され、仮経緯度原点とされました。1885年には、内務省と海軍の間で経度の調整が行われ、チットマン点の値が東経139度44分30秒3と定められました。1888年、海軍観象台は文部省に移管され、帝国大学付属東京天文台となりました。

日本経緯度原点の設定

東京天文台子午環中心

1892年、参謀本部陸地測量部は、東京天文台の子午環の中心を日本経緯度原点とし、以下の経緯度と原点方位角を定めました。

緯度： 北緯35度39分17秒5148
経度： 東経139度44分30秒0970
方位角： 156度27分30秒156（鹿野山に対して）

1915年から1917年にかけて経度の再測定が行われ、1918年には子午環中心の経度が東経139度44分40秒5020に修正されました。

関東大震災にともなう数値変更

1923年の関東大震災で東京天文台の子午環が損壊したため、1924年に一等三角点の改測が行われ、子午環の架台が約1m移動していることが判明しました。1928年には、鹿野山に対する原点方位角が修正されました。

1949年には測量法が制定され、日本経緯度原点の数値が法的に定められました。

経緯度原点の金属標設置

関東大震災後、東京天文台は三鷹村に移転しました。旧天文台跡には、1959年に日本経緯度原点を示す金属標が設置され、1961年に現在の形に整備されました。1996年には、港区指定文化財（史跡）に指定されました。

日本測地系における問題点

日本測地系では、日本経緯度原点の数値は天文測量によって求められた経緯度を用いており、鉛直線偏差がないものと定義されていました。しかし実際には、東京付近では比較的大きな鉛直線偏差が存在していました。

世界測地系導入以後

世界測地系の導入

2002年4月1日、測量法の一部改正により、日本は新たな測地系である「日本測地系2000」を用いることになりました。これは地球の重心を中心とする世界測地系であり、日本経緯度原点の数値も地球重心を原点とするものに変更されました。

緯度： 北緯 35度39分29秒1572
* 経度： 東経139度44分28秒8759

また、旧東京天文台大子午儀跡に代わり、日本経緯度原点が「東京」の代表地点として採用されました。

東日本大震災にともなう数値変更

2011年3月11日の東日本大震災による地殻変動を受けて、日本経緯度原点そのものも移動しました。同年10月21日には測量法施行令が改正され、原点の数値が再定義されました。特に経度が0.0110秒だけ東寄りに改められ、原点が真東に277mm移動したことになります。また、原点方位角も1.453秒だけ増加しました。

さらに、「地心直交座標系における日本経緯度原点の座標値」も改訂されました。

まとめ

日本経緯度原点は、日本の測量における重要な基準点であり、その歴史は日本の近代測量史と深く関わっています。幾多の変遷を経て、現在も測量の基礎としてその役割を果たし続けています。

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