日本航空351便ハイジャック事件

日本航空351便ハイジャック事件の概要

1972年11月6日、羽田空港から福岡空港へ向かう日本航空351便（ボーイング727型機）が、一人の男によってハイジャックされました。犯人は覆面姿で、キューバへの亡命を要求しました。しかし、機長は使用機材が短距離用であるため、要求に応じられないと拒否。そのため、351便は羽田空港へ引き返すこととなりました。

機内には、当時人気絶頂だった歌手の江利チエミさんや三田明さんなどの著名人が乗客として搭乗しており、人質となってしまいました。事件当時、対策本部に所属していた佐々淳行氏によると、犯人は飛行中に使用済みの小額紙幣で100万ドル、パラシュート、手錠、シャベルを要求したとされています。これらの要求は、警察の対策本部を大いに混乱させました。

事件の展開と犯人の逮捕

膠着状態が続く中、犯人は逃走用の機材としてダグラスDC-8型機を用意させました。乗客を解放した後、犯人は自らDC-8へ移動しましたが、その際に潜伏していた警察官によって逮捕され、逃走は未遂に終わりました。

犯人はアメリカ在住の日本人、ポール中岡こと中岡達治（当時47歳）と判明しました。当初、目的地が社会主義国であるキューバであったことから、政治的な背景も疑われましたが、その後の取り調べで無関係であることが明らかになりました。

犯人：ポール中岡（中岡達治）の人物像

中岡達治は、大学を中退後、1948年にアメリカへ渡り実業家として成功を収めた人物でした。1957年にはアメリカの永住権を取得し、1958年にはハリウッド映画『黒船』で製作補佐を務めるなど、多才な一面も持っていました。また、日本プロレスがロサンゼルス遠征を行った際には、現地での世話役も務めていました。1956年の映画『力道山 男の魂』にも出演しており、その配給元が東宝だったためか、「東宝の社員でもないのに、会議に加わって口出しする変な男」として、作家の田波靖男氏が自身の小説『ニッポン無責任時代』の主人公・平均のモデルにしたと、小林信彦氏が語っています。

事件の背景と影響

このハイジャック事件と同日の1972年11月6日には、北陸トンネル列車火災事故も発生しており、同日に発生した二つの大きな事件として社会に衝撃を与えました。

また、犯人が逃走用として用意させたダグラスDC-8は、この事件から22日後にモスクワで墜落事故を起こしています（日本航空シェレメーチエヴォ墜落事故）。

351便の機長は、1965年12月25日に発生した日本航空オークランド空港緊急着陸事故でも、同型機であるDC-8を緊急着陸させた経験を持っていました。

2024年3月26日には、日本テレビ系列の番組『ザ!世界仰天ニュース』で、この事件が「羽田発JAL機ハイジャック!犯人は怪物マスク!芸能人2人も人質に」というタイトルで再現ドラマ化され、事件に至る経緯などが放送されました。

この事件は、当時の航空機におけるセキュリティの甘さを露呈し、その後の対策強化につながるきっかけの一つとなりました。また、犯人の特異な人物像や、事件発生後の関連する出来事が、この事件を語り継がれるものとして印象付けています。

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