日本逸史

『日本逸史』は、平安時代初期の重要な歴史書『日本後紀』を復元することを目的として、鴨祐之によって編纂された歴史書です。完成は元禄5年（1692年）ですが、刊行されたのは享保9年（1724年）と、完成から32年後のことでした。

『日本後紀』は、六国史の一つとして知られ、桓武天皇から淳和天皇までの治世（延暦11年（792年）から天長10年（833年））を記録しています。しかし、応仁の乱による戦禍で多くの史料が失われ、『日本後紀』もその例外ではありませんでした。多くの写本が散逸し、その所在は不明となり、偽書までが出回るという事態に陥っていました。

こうした状況の中、鴨祐之は『日本後紀』の復元という困難な課題に挑みました。『日本後紀』の原本は失われていましたが、他の歴史書や文献に引用されている箇所は残っていました。鴨祐之は、そうした断片的な情報を丹念に収集し、それらを繋ぎ合わせることで『日本後紀』の内容を復元しようと試みたのです。

『日本逸史』の編纂にあたって、鴨祐之は『類聚国史』、『日本紀略』、『類聚三代格』、『政事要略』といった様々な文献を参照しました。これらの史料から引用された記事は、原文のまま、編年体の形式で記述されています。これは、史料の正確性を重視した鴨祐之の姿勢を表していると言えるでしょう。

『日本逸史』の編纂は、鴨祐之の並々ならぬ努力と情熱によって支えられました。しかし、彼の尽力にも関わらず、『日本後紀』の完全な復元は困難でした。その後、塙保己一の門弟が京都で『日本後紀』の写本（全40巻中の10巻分）を発見し、寛政11年（1799年）以降に刊行されたことで、『日本逸史』の内容の検証や補完が可能となりました。

『日本逸史』は、完全に『日本後紀』を復元したものではありませんでしたが、失われた歴史書を復元しようとした先駆的な試みとして高く評価されています。また、様々な史料を網羅している点も大きな特徴であり、後世の歴史研究において貴重な資料として活用されてきました。鴨祐之の地道な努力によって編纂された『日本逸史』は、日本の歴史研究にとって、欠かせない一冊と言えるでしょう。今日でも、多くの研究者が『日本逸史』を参照し、平安時代の歴史を探求しています。この歴史書の価値は、時代を超えて高く評価され続けているのです。

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