日本金属工業

日本金属工業株式会社：日本のステンレス鋼発展史における重要な一社

日本金属工業株式会社は、1932年、国内初のステンレス専業メーカーとして設立されました。その歴史は、日本のステンレス鋼産業の発展と深く結びついています。三井系の企業であり、創業以来、高品質なステンレス鋼の製造に注力し、国内におけるステンレス鋼板の量産化に初めて成功するなど、業界をリードする存在として成長を遂げました。

創業から合併まで：技術革新と事業拡大

設立当初から、高周波電気炉を用いた製鋼技術を駆使し、18-8系ステンレス鋼板の製造に注力しました。高度な技術力と品質管理により、多くの顧客から信頼を獲得し、事業を拡大。従業員数1700名、売上高1000億円を超える企業へと成長を遂げました。2006年度には、主力工場であった相模原製造所の売却益も相まって、経常利益は過去最高を記録。売上高1691億円、経常利益152億円という輝かしい実績を残しました。翌2007年度には、売上高は過去最高の1895億円に達しました。

事業拡大に伴い、愛知県碧南市にある衣浦製造所に生産を集中。本社も同所に移転しました。現在、この工場は日鉄ステンレス衣浦製造所として操業を続けていますが、2015年12月には製鋼工場、2020年11月には熱延工場が休止、2022年3月末には薄板工場も休止となり、日本金属工業株式会社としての生産活動は完全に終了しました。

日本金属工業は、高炉を持たない電気炉メーカーとして、鉄やステンレスのスクラップを溶解してステンレス鋼を製造していました。この点は、高炉を有する日本製鉄などのメーカーとは異なる特徴でした。かつては、日本ステンレス、日本冶金工業とともに「ステンレス専業3社」と呼ばれ、それぞれ1000億円以上の売上高を誇る企業として業界を支えていました。現在、この3社の中で日本冶金工業だけが独立して存続しています。日本ステンレスは住友金属工業に合併され、その後、新日本製鐵と合併して現在の日本製鉄となりました。日本金属工業も、日新製鋼との経営統合、合併を経て、間接的に日本製鉄の傘下に入ったと言えるでしょう。

製品と技術：多様なニーズに対応

日本金属工業は、ステンレス鋼板、塗装ステンレス鋼板、建材関連商品、極薄鋼帯、メンブレンシートなど、多様な製品を製造していました。厚板は、造船業界などにも納入され、艦船や潜水艦の製造に貢献しました。また、ステンレス鋼管の水道管配管システムも製造し、朝日新聞東京本社ビル（築地本社ビル）などにも採用されました。異種金属接触による腐食を防ぐため、「絶縁パッキン」の使用を推奨するなど、技術的な配慮も徹底していました。

さらに、ステンレス鋼浴槽「ジャブロン」も製造しており、テレビCMも放映されるなど、一般消費者にも広く知られる製品となりました。

ステンレス鋼とは

ステンレス鋼は、鉄にニッケルやクロムなどの合金元素を加えることで、耐食性、強度、加工性に優れた特性を持たせた金属材料です。その特性から、建築、医療、食品、化学工業など、幅広い分野で利用されています。しかし、水溶液中での異種金属接触による腐食（電蝕）や「もらい錆」といった現象にも注意が必要となります。鋼種も304系（磁性体）、430系（非磁性体）など、用途に応じて様々な種類があります。

歴史的意義：ステンレス鋼発祥の地

日本金属工業横浜工場は、日本で初めてステンレス鋼が製造された場所であり、「ステンレス鋼発祥の地」として記念碑が今も残っています。この工場はステンレス鋼線の製造に特化しており、1987年に閉鎖されましたが、その歴史的意義は現在も継承されています。

まとめ：日本のステンレス鋼産業への貢献

日本金属工業株式会社は、日本のステンレス鋼産業の発展に大きく貢献した企業でした。その技術革新と事業展開の歴史は、日本の産業史において重要な位置を占めています。日新製鋼との合併により、その社名は消滅しましたが、その技術と経験は、現在の日本製鉄など、日本の鉄鋼業界全体に受け継がれていると言えるでしょう。

もう一度検索