日本鉱業佐賀関鉄道

日本鉱業佐賀関鉄道は、かつて大分県の佐賀関半島に存在した、日本鉱業（現在のJX金属）が運営するローカル鉄道路線でした。通称「佐賀関線」として親しまれたこの路線は、日豊本線の幸崎駅に接続する日鉱幸崎駅から、半島の先端近くにあった日鉱佐賀関駅までのわずか9.2キロメートルを結んでいました。1946年に開業しましたが、1963年には廃止され、その運行期間はわずか17年という短いものでした。

歴史的な背景

この鉄道の建設が計画されたのは、太平洋戦争が勃発し、海上輸送が危険かつ困難になったことが直接的な要因でした。佐賀関半島北岸での物資輸送を代替する目的で建設が進められましたが、地形的な問題などから工事は難航。結局、終戦後の1946年まで開業がずれ込み、本来の目的であった戦時下の軍事・物資輸送には間に合いませんでした。開業後は、主に日本鉱業佐賀関製錬所への通勤輸送や貨物輸送を担うことになります。

路線と運行

佐賀関線の路線データは以下の通りです。

営業キロ: 9.2km
軌間: 762mm
駅数: 9駅（起終点を含む）
複線区間: なし（全線単線）
電化区間: なし（全線非電化）
交換可能駅: 1駅（日鉱大志生木）

全線単線・非電化であり、軌間は762mmという特殊なものでした。廃止間際には、全線を通して約25～30分で結び、区間列車を含め一日20往復もの列車が運行されるなど、ローカル線としては比較的高い頻度で運行されていました。沿線には日本鉱業の社宅が多く点在しており、特に朝夕の通勤時間帯には、日鉱大志生木駅と終点の日鉱佐賀関駅の間で激しい混雑が見られたといいます。また、当時の鉄道ではまだ珍しかった女性車掌が乗務しており、一般的な制服とは異なる茶色のユニフォームを着用していたという記録も残っています。

駅と接続

路線に設けられていた駅は以下の9駅でした（廃止時点の駅名）。

日鉱幸崎駅
日鉱本幸崎駅
日鉱大平駅
日鉱大志生木駅
日鉱小志生木駅
日鉱辛幸駅
日鉱古宮駅
日鉱金山駅
* 日鉱佐賀関駅

起点の日鉱幸崎駅では、国鉄の日豊本線にある幸崎駅と接続し、広域ネットワークへのアクセスを可能としていました。

多様な車両たち

開業当初は蒸気機関車が旅客・貨物列車を牽引していましたが、1951年以降は動力近代化が進められました。かつて国鉄大隅線のルーツとなった鉄道で使用されていた車両をディーゼル気動車として復活させた車両や、新たに製造されたディーゼルカーが導入され、旅客輸送は気動車が中心となりました。ディーゼル機関車も導入され、多様な形式の蒸気機関車、内燃機関車、気動車、客車、貨車などが狭い軌間の上で活躍していました。中には、他の鉱山鉄道から譲り受けた車両や、後に別の場所へ譲渡された車両もあり、短い歴史ながら車両構成はバラエティに富んでいました。

廃線後の歩み

1963年にその歴史に幕を閉じた佐賀関鉄道ですが、廃止された路線の跡地は、その多くが現在も様々な形で活用されています。地元住民の生活道路や憩いの場となる遊歩道、サイクリングロードなどに転用され、地域に根差しています。特に、日鉱辛幸駅から日鉱金山駅にかけての区間はサイクリングロードとして整備され、かつての雰囲気を残す場所として利用されています。

路線上に存在した4つのトンネルのうち、大志生木トンネルと金山トンネルは現在も人々の往来に利用されており、適切な管理が行われています。一方、小志生木トンネルと古宮トンネルは完全に閉鎖されています。起点の幸崎駅周辺など、一部の区間では区画整理や道路建設などにより鉄道の痕跡が完全に失われてしまった場所もありますが、日鉱大平付近のように、未舗装の生活道路や当時の橋桁などが残り、わずかにかつての鉄道の面影を感じさせる場所も存在します。終点の日鉱佐賀関駅跡は、現在大分バスの佐賀関ターミナルが立地する場所にあたります。かつて旅客線と分岐していた貨物線は、製錬所敷地内まで延びていましたが、貨物輸送廃止後も一部残っていたレールも撤去され、その後道路拡幅などによりその痕跡も完全に消滅してしまいました。

日本鉱業佐賀関鉄道は、わずか17年という短命な鉄道でしたが、地域の基幹産業であった製錬所の活動を支え、そこに働く人々の生活を運び続けた、地域の重要な交通インフラでした。その廃線跡が今なお人々に利用されていることは、短いながらも地域に深く根差していたことの証と言えるでしょう。

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