日英博覧会

日英博覧会：日本の近代化を世界へ発信する舞台

1910年、ロンドンのホワイトシティで開催された日英博覧会は、日本政府とイギリスの博覧会会社イムレ・キラルフィーの共催による一大イベントでした。これは日本初の国際相互博覧会であり、20世紀初頭において西洋で日本に関する最大の催しとして注目を集めました。

博覧会の概要

日英同盟のもと、3年以上の準備期間を経て開催されたこの博覧会は、シェパーズ・ブッシュ（現在のホワイトシティ）の広大な敷地を舞台に、日本の歴史、産業、芸術、そして日本の統治下にあった台湾、朝鮮、満州に関する展示が行われました。展示品は5万4000点を超え、日本は近代産業を同盟国であり経済大国でもあるイギリスに広く紹介し、貿易の活性化を目指しました。また、日清・日露戦争の勝利によって列強に肩を並べるようになった日本の植民地経営とその資源を誇示する場でもありました。

博覧会開催のきっかけは、1908年に仏英博覧会を成功させた興行師キラルフィーからの誘いでした。当初、日本政府は主催者がイギリス政府ではなく一興行主であること、そして1912年に日本で大英国博覧会の開催を予定していたことから、この誘いを断っていました。しかし、当時の外務大臣であった小村寿太郎の強い後押しがあり、開催へと至りました。政府関係者の間では、1904年のセントルイス万国博覧会の成功がポーツマス条約の締結に大きく貢献したという認識があり、博覧会への参加は重要な外交戦略と捉えられていたのです。

しかし、開催直前の5月6日にイギリス国王エドワード7世が急逝し、イギリス全土が喪に服するという事態が発生しました。開会式は中止となり、新聞なども祝祭的な記事の報道を自粛したため、博覧会に関する記録は多くありません。伏見宮貞愛親王が名誉総裁を務め、日本側は208万円の費用を投じ、会場の敷地面積は22,550平方メートルにも及びました。国宝の海外搬出には議論がありましたが、井上馨の決断により宮内省の所蔵品を含む多くの国宝がイギリスに渡り、フランスやドイツなど近隣諸国からも多くの観覧者が訪れました。イギリスの服喪期間中にもかかわらず、博覧会は835万人もの観客を集め、大きな成功を収めました。

展示内容

日本側の展示

博覧会では、歴史宮、産業宮、芸術宮などの主要な施設が設けられました。日本の美術品や建築模型が多数展示され、来場者から高い評価を受けました。特に、東洋宮では台湾、朝鮮、満州における植民地経営と、そこから得られる豊富な資源や文化に関する展示が大規模に行われました。また、日本赤十字社の活動を紹介する展示も行われ、国際社会の一員としての日本の姿をアピールしました。

国宝級の古美術品や同時代の美術作品に加え、会場内には日本村（Fair Japan）が作られ、相撲や大道芸、大工仕事や手工芸の実演が行われました。歌川国貞の曾孫にあたる歌川若菜が浮世絵の実演を、矢部節子や白崎園子が女子手芸を披露し、話題を呼びました。上村松園や榊原蕉園らの作品が美術部門に公式出品されたほか、婦人展示部門には武村耕靄の日本画が出品されました。

陸軍からは陸軍戸山学校軍楽隊、海軍からは巡洋艦「生駒」が派遣され、博覧会を盛り上げました。また、余興区画では力士団が土俵を設けて相撲を披露し、日本人農民が米俵製作の実演を通して日本の伝統的な農村風景を紹介しました。アイヌや台湾のパイワン族が住み込みで生活の様子や民族舞踊を披露する展示も行われました。

英国側の展示

一方、英国側の出品は小規模にとどまりました。これは、主催者であるキラルフィーが異国趣味を好む大衆向けに日本風俗の見世物興行を強調したことや、イギリス政府からの補助金が少なかったことが理由として挙げられます。そのため、この博覧会を「英国における日本展」に過ぎないと批判する日本の政治家やジャーナリストもいました。

主催者：イムレ・キラルフィー

興行主のイムレ・キラルフィーは、ハンガリー生まれの元旅芸人であり、シカゴ万国博覧会などでショーを公演し成功を収めました。その後、イギリスに渡り、ホワイトシティに博覧会用の施設を建設し、仏英博覧会などを成功させました。

博覧会の遺産

博覧会の際に作られた日本庭園は、現在ハマースミス公園として残っています。また、日本建築を紹介するために作られた台徳院霊廟の建築模型は王室コレクションとして保存され、現在は増上寺で公開されています。西本願寺の勅使門（唐門）の復元はキューガーデンに移築され、ジャパニーズ・ランドスケープ区域内の建造物として公開されています。

日英博覧会は、日本の近代化の成果を世界にアピールし、国際的な地位を高める上で大きな役割を果たしました。しかし、その一方で植民地支配の正当化や見世物的な要素も含まれており、今日においても様々な視点から議論されています。

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