日蓮 (映画)

1979年公開映画『日蓮』：壮大なスケールで描く、日蓮聖人の生涯

1979年公開の映画『日蓮』は、日蓮聖人の波乱に満ちた生涯を題材にした歴史スペクタクル大作です。製作は、1958年に『日蓮と蒙古大襲来』を手がけた大映の永田雅一。永田雅一は日蓮宗の熱心な信者としても知られており、本作でも日蓮宗関係者の協力を得て製作されました。当時の日蓮宗信者数は1000万人とも言われ、その団体動員を背景に製作されたことが伺えます。

配給は当初東映と交渉されましたが、最終的には松竹となりました。興味深いのは、同時期に笹川良一がスポンサーとなり、松方弘樹主演で『日蓮と南無妙法蓮華経』というタイトルの自伝映画が製作発表まで進んでいたことです。この企画は、高額なギャラが噂される俳優陣を起用し、18億円という巨額の製作費が投じられる予定でしたが、残念ながら製作には至りませんでした。

豪華キャストとスタッフが織りなすドラマ

『日蓮』は、萬屋錦之介が日蓮を熱演。少年時代の日蓮は伊藤洋一が演じ、貫名重忠役には田村高廣、妻の梅菊役には岸田今日子など、錚々たる顔ぶれが脇を固めています。日蓮の弟子である日昭、日朗、日興などの主要人物も、中村嘉葎雄、中村光輝、永島敏行といったベテラン俳優が演じています。

その他、北条時頼、時宗、政村、長時といった鎌倉幕府の執権を演じるキャストも豪華です。6代執権北条時頼を市川染五郎(6代目)、8代執権北条時宗を松方弘樹、7代執権北条政村を香川良介といった、時代劇で活躍した名優たちが、それぞれの役柄に深みを与えています。脇を固める俳優陣も実力派揃いで、歴史劇に華を添えています。

監督・脚本は中村登。撮影は竹村博、美術は芳野尹孝と横山豊が担当するなど、スタッフ陣も映画界の第一線で活躍したメンバーが集結。音楽は芥川也寸志が担当し、時代劇にふさわしい重厚な音楽が作品の世界観をさらに深めています。特撮技術には、東宝映像の川北紘一が参加。1958年の『日蓮と蒙古大襲来』の特撮シーンも一部流用され、壮大なスケール感を実現しています。

日蓮の生涯と信仰、そして時代背景

映画では、日蓮の出生から、仏教界との激しい対立、迫害、そして布教活動まで、生涯の重要な出来事が克明に描かれています。日蓮の揺るぎない信仰心、弟子たちとの絆、そして権力者との葛藤など、様々な人間模様が丁寧に描かれ、観る者の心を揺さぶります。また、鎌倉時代の社会情勢や政治状況も背景として描かれ、日蓮の生き様をより深く理解する助けとなっています。

『日蓮と蒙古大襲来』の一部特撮シーンが流用されていることからも、製作陣の意気込みと、当時の技術力の高さが伺えます。単純な伝記映画に留まらず、歴史ドラマとしても高い完成度を誇る作品と言えるでしょう。2005年には角川映画よりDVDが発売され、現在でもその迫力とドラマ性を堪能することができます。日蓮聖人の生涯に興味のある方はもちろん、時代劇ファンにも強くおすすめしたい作品です。

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