日運

戦国期を生き抜いた僧侶、日運：波乱の生涯と信仰

日運（にちうん）は、15世紀後半から16世紀前半にかけて活躍した日蓮宗の僧侶です。美濃国守護代、斎藤利藤の末子として誕生し、幼名は毘沙童（びしゃどう）でした。兄には後に長井氏を継ぐ長井利隆がいます。

日運の生涯は、まさに戦国時代の激動を反映したものでした。明応4年（1495年）、父・斎藤利藤は斎藤妙純との権力争いに敗れ、守護の座を追われます。この混乱の中、美濃国守護の土岐成頼とその周辺勢力による複雑な政治闘争が勃発します。その渦中に、日運は巻き込まれていきます。

当時の美濃国は、土岐氏と斎藤氏、そしてその他の勢力による複雑な権力闘争の真っ只中にありました。土岐成頼の偏愛を受けた土岐元頼を擁立した勢力が、斎藤妙純に反旗を翻します。この反乱には、斎藤利藤の嫡孫である利春も参加していましたが、彼は病死してしまいます。このため、利藤の末子である幼い毘沙童が代わりに反乱軍の象徴として擁立されたのです。

明応5年（1496年）、この反乱は鎮圧され、土岐元頼は自刃、土岐成頼と斎藤利藤はそれぞれ隠居を余儀なくされます。この戦乱を生き延びた毘沙童は、13歳の若さで僧侶となる道を選びました。この出来事は、彼のその後の人生に大きな影響を与えたと考えられます。

出家後、毘沙童は南陽坊と名乗り、京都の妙覚寺で日善上人に師事します。同寺には、後に斎藤道三の父となる法蓮房もおり、兄弟子として共に仏道を極めました。南陽坊は優れた教養と知性を備えていたとされ、その才能はすぐに周囲に認められ、高僧への道を歩み始めます。

永正13年（1516年）、兄である長井利隆に招かれ、美濃国へ帰国。日運と改名し、妙覚寺の末寺である常在寺の住職に就任します。この頃、松波庄五郎も日運を頼って美濃国に赴いたと伝えられています。日運の没年は不明ですが、常在寺の住職はその後、斎藤道三の遺児である日饒が継ぎ、妙覚寺の19世住職となるなど、日運の弟子や子孫は、日蓮宗において重要な役割を果たしていくことになります。

日運の生涯は、戦国時代の混乱と、信仰の道を歩むこととの葛藤、そしてその中で見出した心の拠り所を物語るものです。彼の存在は、歴史の狭間で生きた多くの人の人生を映し出し、現代においても深い考察を促す、重要な歴史的証言となっています。近年の大河ドラマ『麒麟がくる』でも取り上げられ、改めて注目を集めている人物です。その生涯は、歴史書や物語を通じて、これからも語り継がれていくことでしょう。

参考文献

『美濃国諸旧記・濃陽諸士伝記』（黒川真道編）国史研究会　大正4年（1915年）
『美濃明細記』（伊東実臣著）一信社出版部　昭和7年（1932年）

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