日野菜

日野菜（ひのな）とは

日野菜は、滋賀県日野町が原産のカブの一種で、太陽光が当たる部分が赤紫色になる特徴的な外観を持つ野菜です。別名として「日野菜カブ」や「赤菜」とも呼ばれます。主に漬物として利用され、特に「日野菜漬け」は日野町の特産品として知られています。21世紀に入っても栽培と漬物製法が継承されており、地域に根付いた伝統野菜として大切にされています。

原産地と名称

日野菜の原産地は、滋賀県蒲生郡日野町の鎌掛地区とされています。日野が原産であることから「日野菜」と名付けられ、カブの一種であるため「日野菜カブ」とも呼ばれます。また、根の地上部が紅紫色であることから「あかな」とも呼ばれてきました。この「あかな」という呼び名は、古くから日野付近で使われてきた名称です。本稿では、以降「日野菜」の名称で統一します。

栽培

栽培地

日野菜は、21世紀初頭においても伝統野菜として位置づけられ、滋賀県では最もよく知られた伝統野菜の一つです。元々は日野町周辺で栽培されてきましたが、現在では湖南地域の草津市で最も多く栽培されています。しかし、日野町の鎌掛地区や南比都佐地区など、発祥の地でも栽培が続けられています。また、滋賀県外でも九州から信越地方にかけて栽培されており、特に西日本地域で広く栽培されています。

滋賀県琵琶湖研究所の主張によれば、原産地である日野町で栽培された日野菜が最も美味しいとされています。その理由は、日野町の畑が古琵琶湖層の段丘に位置し、土質が肥沃ではないことが影響していると考えられています。肥沃な土地で栽培すると葉が大きく育ち、味が大味になり、日野菜本来の風味が損なわれるとされています。

栽培方法

日野菜は、温暖な地域では真夏を除きいつでも栽培が可能ですが、一般的には夏から冬にかけて栽培されます。梅雨明け頃から10月上旬にかけて種を播き、40〜50日後に収穫します。何度も種を播くことで収穫時期を長くできます。特に、9月下旬に播種し、11月中旬頃に収穫したものが最も美味しく、色も美しいとされています。寒さに晒されることで、赤紫色が鮮やかになるためです。

日野菜は発芽率が高く、比較的栽培しやすい野菜ですが、形が良いものを育てるには手間と技術が必要です。水田での転作も行われるようになりましたが、本来は畑で深く耕して畝を高めに作った方が、根が長く伸びやすくなります。畝幅は1m程度にし、4筋に種を蒔き、成長に合わせて3回程度の間引きを行います。最終的に苗の間隔が握り拳程度になるように調整し、根の長さが20〜25cm程度に育ったら収穫の適期です。

利用

主な食べ方

日野菜は比較的硬いため、主に漬物として食べられます。刻んで塩漬けにしたものは「日野菜漬け」と呼ばれ、色素によってピンク色に見えることから「桜漬け」とも呼ばれます。日野菜漬けは滋賀県名物の漬物として知られており、塩味の他に独特の辛味と苦味があります。

滋賀県内での取り扱い

滋賀県では、一般的なカブと日野菜を区別して扱います。大津市や草津市などの人口が多い地域では、11月頃になると、八百屋やスーパーマーケットで漬物用として日野菜が束で売られています。日野菜は主に漬物として食べられるためです。近年では、家庭で漬物を漬ける機会が減っているため、既に漬けられたものが販売されることもあります。日野菜は塩漬けの他に、糠漬けなどにされることもあります。また、漬物以外の新たな利用法も模索されています。

歴史

日野菜の歴史は室町時代にまで遡ります。1470年代、当地の領主であった蒲生貞秀が、音羽城付近の山林で自生していた野菜を発見し、漬物にしたところ、その色と味が大変優れていたため、栽培を始めました。その後、平安京の公家である飛鳥井雅親や、後柏原天皇に献上されたと伝えられています。天皇はその味を喜び、歌を詠んだとされ、その時からこの菜を日野菜と呼ぶようになったとされています。

江戸時代には、近江国が彦根藩の井伊家の領地となると、その風味が藩主の好みに合ったため、御殿野菜として門外不出になりました。宝暦年間には、種子商人の吉野源兵衛が品種改良を行い、その息子である正治郎が変種を避ける工夫をした上で、地域住民に良質の種子を販売し、現在の品種が安定したとされています。

2022年10月21日には、日野菜が「近江日野産日野菜」として、地理的表示（GI）保護制度に登録されました。これにより、地域ブランドとしての価値が守られることになりました。

脚注

注釈

出典

参考文献

中島, 拓男「日野菜」（PDF）『滋賀県琵琶湖研究所所報』第9巻、滋賀県琵琶湖研究所、1991年、62-63頁。
“再発見!滋賀の伝統野菜 : 滋賀の伝統野菜：日野町日野菜”. 農林水産省 (2001年11月). 2011年9月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月22日閲覧。
“日野菜とは”. 日野町商工協会. 2014年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月22日閲覧。
『近江蒲生郡志』
『近江日野町志』
金子美登『有機・無農薬でできる野菜づくり大事典』成美堂出版、2012年4月1日、172頁。ISBN 978-4-415-30998-9。

関連項目

松阪赤菜
伊予緋蕪 - 愛媛県の赤カブ。蒲生忠知が伊予松山藩に転封された際に日野菜を持ち込んで定着したと伝えられる。ただし、形状が異なっており、分析の結果、伊予緋蕪は日野菜の近縁ではなく、信州カブの近縁と考えられるようになった。

外部リンク

日野菜愛承会
近江日野産日野菜（登録番号第122号）:登録の公示・登録産品紹介 - 農林水産省[地理的表示]保護制度登録産品

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