蒲生忠知

蒲生忠知：数奇な運命に翻弄された大名

蒲生忠知（がもう ただとも）は、慶長9年（1604年）に陸奥会津藩主・蒲生秀行の次男として生まれました。幼少の頃より家臣・蒲生郷治によって養育され、異父弟には浅野光晟がいます。

生涯

慶長17年（1612年）に松平姓を与えられ、翌年には元服。三春城または津川城に置かれたと伝えられています。元和9年（1623年）には従四位下に叙されました。

寛永3年（1626年）、出羽上山藩4万石の藩主となります。この際、守役であった蒲生郷治は、自らの家臣団を忠知に託し、忠知を支えるよう命じたとされています。

しかし、寛永4年（1627年）に兄である会津藩主・忠郷が嗣子なく急逝。本来ならば蒲生家は断絶となるところでしたが、母・正清院が徳川家康の娘であったことから、幕府の計らいにより忠知が家督を相続することとなりました。ただし、会津60万石から伊予松山24万石への減移封となりました。

寛永5年（1628年）には、磐城平藩主・内藤政長の娘（正寿院）と結婚。祝宴には大御所・徳川秀忠、将軍・徳川家光も臨席したと伝えられています。正室の影響か、忠知の治世は良好で、寺院の建築や移築などを行いました。居城である松山城の完成にも力を注ぎ、二之丸の整備や天守閣の建設を行ったとされています。

寛永7年（1630年）には、再び重臣間の抗争が勃発。蒲生郷喜とその弟である蒲生郷舎に対し、他の家臣たちが忠知と幕府に訴え出たのです。最終的に寛永9年（1632年）、将軍・家光御前での対決を経て裁決が下されましたが、多くの家臣が処罰され、忠知の政権基盤は大きく揺らぎました（寛永蒲生騒動）。

寛永8年（1631年）頃、嫡男・鶴松が誕生しますが、幼くして病死。寛永11年（1634年）、将軍家光の上洛の準備のために京都に入った忠知は、帰国途中に病に倒れ、急逝しました。享年31歳。死因は不明ですが、疱瘡が原因とも言われています。

忠知の死後、正室が懐妊していたため、幕府は出産を待って松山藩の取り扱いを決定することにしました。しかし、生まれたのは娘であったため、嗣子不在を理由に松山藩は改易。蒲生氏は断絶となりました。ただし、幕府は蒲生氏郷の名声や忠知が家康の外孫であることを考慮し、将来的な再興も検討していたと伝えられています。

人物・逸話

蒲生忠知は、蒲生氏郷の没後、御家騒動が頻発していた蒲生家にあって、その治世もまた家臣団の対立に悩まされました。家臣の出自も多様で、会津藩と上山藩からの移籍者、加藤家からの引き取り者などが混在し、家中の不安定要因となりました。

しかし、一方で、幕府の隠密調査では、家臣の横暴を抑制し、農民の負担軽減を図っていたことが伝えられており、民衆からの評判は悪くなかったようです。

また、忠知の死後、世継ぎとなる男子が生まれなかった背景には、妊婦を虐待した祟りがあったという怪奇話も存在します。松山城には「まな板石」なるものが残され、すすり泣く声が聞こえるという噂もあります。

蒲生忠知は、徳川家康の血を引くという出自を持ちながらも、数奇な運命に翻弄され、若くして亡くなった大名でした。その短い生涯は、蒲生家の盛衰を象徴していると言えるでしょう。

もう一度検索