日野誕生院

京都市伏見区日野西大道町に位置する日野誕生院は、浄土真宗本願寺派の寺院で、ご本尊は阿弥陀如来です。ここは、浄土真宗の宗祖である親鸞聖人がお生まれになったと伝えられる、大変由緒深い地です。本願寺が所有する境内の中でも、「大谷本廟」や「角坊」などと同様に、本山からは離れた飛地境内の一つとして位置づけられています。

現在見られる本堂は、聖人の誕生を記念し、1931年（昭和6年）に建立されたものです。

親鸞聖人との関わり

日野誕生院は、何よりも親鸞聖人のご誕生の地として知られます。聖人は永承6年（1051年）、法界寺を建立した日野資業から五代後の子孫にあたる日野有範を父、そして清和源氏の棟梁として名高い八幡太郎義家の孫娘とされる吉光女を母として誕生されたと伝えられています。父の有範は当時、皇太后に仕える大進という役職にあったとされます。

境内には、幼少期の親鸞聖人を写した銅像や、聖人が得度（出家）された際に詠まれたという和歌を刻んだ石碑が建てられており、訪れる人々に聖人の生涯の始まりの物語を静かに伝えています。

歴史

この地の本格的な歴史は、江戸時代後期の文政11年（1828年）9月、西本願寺の第20代門主であった広如上人が、親鸞聖人の生誕地を顕彰するために、「有範堂」あるいは「宝物堂」と呼ばれるお堂を建立したことに始まります。

明治時代に入り、1878年（明治11年）には第21代門主明如上人によって「日野別堂」と改称されました。大正時代、立教開宗700年を迎える記念事業として、1923年（大正12年）にこの別堂の大規模な改築が決定されます。そして、第23代門主勝如上人のもと、1928年（昭和3年）5月に工事が着工され、足かけ三年を経て1931年（昭和6年）3月に完成、同年5月に盛大な落慶法要が営まれました。この時、名称は再び「日野誕生院」と改められたのです。

建築様式

現在の本堂は、独特の建築様式を特徴としています。本堂の周囲には格調高い雰囲気を備えた廻廊が巡らされており、内部の中庭は、中心に銅灯篭一基を配し、白い砂利を敷き詰めた白州（しらす）で構成されています。この造りは、従来の真宗寺院の一般的な形式とは大きく異なり、平安時代の貴族の邸宅を思わせる、優雅で趣深い雰囲気を持っています。

門前向かって右手には、親鸞聖人童形像と前述の歌碑が設置されています。

境内と周辺

日野誕生院の境内には、中心となる本堂のほか、本堂を取り囲む廻廊、中門、鐘楼、庫裏といった伽藍があります。また、敷地の隣には誕生院保育園が併設されています。

境内の一部である飛地（隣接する法界寺の近く）には、親鸞聖人誕生の際に使われたとされる「産湯の井戸」や、胎盤を納めたとされる「ゑな塚（えなづか）」が今も大切に残されています。さらに、この地域には親鸞聖人の父方の祖先である日野氏の墓所、日野御廟所（ひのごびょうしょ）があります。

周辺には、天台宗の古刹である法界寺をはじめ、一言寺、真言宗醍醐寺といった寺院も点在しており、あわせて訪れることで、より深く地域の文化や歴史に触れることができます。

結び

日野誕生院は、浄土真宗の信仰における根源的な場所であり、親鸞聖人のご誕生という、教団にとって最も重要な出来事を記憶する聖地です。その静かなたたずまいや、特徴的な建築、そして聖人ゆかりの遺構を通じて、訪れる人々に親鸞聖人の偉大な生涯の始まりを静かに語りかけています。

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