角坊

角坊（すみのぼう）

京都市右京区に位置する角坊は、浄土真宗本願寺派に属する寺院です。本尊として阿弥陀如来を安置しており、宗教法人本願寺が所有する飛地境内の一つとして知られています。京都市内には、本願寺の主要な飛地境内として「大谷本廟」や「日野誕生院」がありますが、角坊もこれらと並ぶ重要な位置づけにあります。

歴史

角坊の歴史は、鎌倉時代に遡ります。当時、現在の京都市右京区山ノ内の地には、比叡山延暦寺東塔にあった善法院の里坊が存在し、そこに親鸞聖人の実弟である尋有僧都が住んでいました。親鸞聖人は、六十歳を過ぎて関東での教化活動を終え、京都に戻ると五条西洞院（現在の松原西洞院付近、光圓寺のある辺り）に居を構えていましたが、建長7年（1255年）に発生した火災により被災し、この善法院の里坊に身を寄せることとなりました。親鸞聖人は、この善法院の境内に自らのための小さな草庵を結び、これを「角坊」と名付けたと伝えられています。親鸞聖人は、弘長2年（1263年）11月28日にこの角坊で示寂されたとされています。しかし、聖人の遷化後、善法院は次第に衰退し、廃寺となり、その正確な場所も長い間不明となってしまいました。

親鸞聖人の曾孫にあたる本願寺第三世覚如上人は、親鸞聖人の生涯を描いた「本願寺聖人親鸞伝絵」の中で、聖人の示寂地を「押小路ノ南、萬里小路ヨリ東」と記しましたが、善法院の廃絶により、その記述が具体的にどの地点を指すのかが曖昧になっていました。

事態が動いたのは、江戸時代末期の安政4年（1857年）です。本願寺第二十世広如上人が、当時の学僧であった僧純に親鸞聖人示寂地の調査を命じました。僧純は綿密な考証を行い、現在の角坊の地こそが善法院の跡地であると特定しました。この考証結果に基づき、本願寺は当時この地の所有者であった相国寺から土地二反（約2,000平方メートル）を購入しました。そして、宗祖親鸞聖人の六百回忌を迎えるにあたり、この地に角坊別院の建立が計画されました。別院の建立後まもなく、本堂にあたる還浄殿には広如上人自らの筆による「還浄殿」の扁額が掲げられました。ちなみに、真宗大谷派では、親鸞聖人の示寂地について、現在の京都市立京都御池中学校の地を善法院跡地とする異なる学説を採っています。

時は流れ、平成20年（2008年）11月、本願寺角坊別院は本山本願寺に吸収合併され、正式に本願寺の飛地境内である「本願寺角坊」となりました。これを機に、老朽化した建物の全面的新築を含む大規模な境内地整備工事が決定されました。この整備工事は、親鸞聖人七百五十回大遠忌に向けた宗門長期振興計画の一環として進められました。計画にあたっては、将来的な周辺地域の変化、団体参拝者の受け入れ態勢、さらには境内に所在する中央仏教学院などの施設の活用面も考慮に入れ、様々な角度から検討が重ねられました。委員による現地視察なども踏まえ、最終的には木造による新築工事が進められることとなりました。新しい本堂は旧本堂と同規模で設計され、以前は個別の建物として存在した元本堂（別院創建時の本堂）、書院、寺務所、客殿などの機能を、本堂の脇に建設された寺務所・集会所棟に集約し、これらを渡り廊下で接続する構造が採用されました。

平成21年（2009年）9月には工事が着工しました。この際、山門、鐘楼、手水舎、そして工事期間中の仮本堂として使用される元本堂を残し、旧本堂や書院、寺務所、客殿などが解体されました。同年11月には起工式が執り行われ、本格的な工事が開始されました。

平成22年（2010年）1月までには、本堂および寺務所建物の基礎工事が完了しました。8月末には両建物の屋根工事が終わり、渡り廊下の施工が進められました。同年10月には、仮本堂としての役目を終えた元本堂が解体されました。並行して、参道や庭園の整備、山門の移築、塀の新設および改修、駐車場の整備、鐘楼と手水舎の改修といった外構工事が進められました。10月末には本堂と寺務所建物がほぼ完成し、本堂内陣の床には摺り漆が施されました。12月中旬には建物全体の引き渡しを受け、すぐに仏具の搬入と設置が行われました。そして、12月下旬には竣工式が盛大に執り行われ、新しい本願寺角坊の伽藍が完成しました。

境内

還浄殿（げんじょうでん）：角坊の中心となる建物であり、本願寺の飛地境内における本堂としての役割を果たします。現在の建物は平成22年（2010年）に再建されたものです。厳密に言えば、本願寺全体の本来的な意味での本堂は、京都市下京区にある本山本願寺の阿弥陀堂です。還浄殿に掲げられた扁額「還浄殿」は、本願寺第二十世広如上人の筆によるものです。
寺務所：こちらも平成22年（2010年）に新築された建物で、本堂の脇に位置し、集会所などの機能も集約されています。
親鸞聖人像：境内に建立された親鸞聖人の御像です。
中央仏教学院：境内に所在する、浄土真宗本願寺派が運営する浄土真宗の専門学校です。
西本願寺保育園：角坊の敷地内にある保育施設です。
鐘楼：梵鐘が吊るされた建物です。
山門：太平洋戦争中の金属類回収令により供出された、先代の親鸞聖人の銅像が被っていたとされる笠が掛けられています。

年間行事

角坊では、以下の年間行事が行われています。

1月15日：通夜勤行
6月2日・3日：広如忌

所在地・交通アクセス

所在地：京都府京都市右京区山ノ内御堂殿町25
交通：京都市営地下鉄東西線「太秦天神川駅」下車、徒歩約5分

関連事項

西本願寺：角坊の本来の本境内です。
中央仏教学院：角坊境内に位置する専門学校です。
大谷本廟：西大谷とも呼ばれ、本願寺の飛地境内の一つで、親鸞聖人の御廟所があります。
日野誕生院：本願寺の飛地境内の一つで、親鸞聖人がお生まれになったとされる地です。
京都市立京都御池中学校：真宗大谷派が親鸞聖人の示寂地である善法院跡地とする学説の場所です。

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