旧事諮問録

旧事諮問録（きゅうじしもんろく）

『旧事諮問録』は、明治20年代に東京帝国大学史談会によって編纂された、江戸幕府の役人たちへの質疑応答記録です。江戸幕府が消滅してから約20年後、旧幕府時代の文化や風俗が失われることを危惧した学者たちが、その実情を後世に伝えるために行った事業です。

成立の背景

1890年から1891年にかけて、東京帝国大学の学者グループが中心となり「旧事諮問会」が発足しました。この会は、江戸幕府の政治、経済、法政、外交など多岐にわたる分野で、実際に役職に就いていた元役人たちに話を聞き、その証言を記録することを目的としました。江戸幕府の消滅から時間が経ち、当時の暮らしや文化が失われる危機感から、学者たちが立ち上がり、貴重な証言を後世に残そうとしたのです。

記録の特徴

この記録の特徴は、単なる聞き書きではなく、座談会形式で記録された点にあります。質問者と回答者が対話する形式で、より具体的な内容が引き出され、当時の様子が鮮明に浮かび上がります。また、当時最先端であった速記術によって記録されたため、会話のニュアンスまで忠実に捉えられています。

内容

記録内容は多岐にわたり、役人の仕事内容や慣習、当時の風俗、奇談などが含まれています。以下に各回のテーマと主な回答者をまとめます。

第1回：『将軍の起居動作等』 - 坪内定益（旧幕御小姓頭取）、松浦信寔（旧幕御小姓・御目付）
第2回：『政の事-勘定所』 - 鈴木重嶺（旧幕御勘定組頭・同吟味役・同奉行並・佐渡奉行）
第3回：『司法の事-評定所』 - 小俣景徳（旧幕評定所留役・御目付・奈良奉行）
第4回：『大奥の事』 - 箕浦はな子（旧幕中臈）、佐々鎮子（旧幕御次）
第5回：『目付・町奉行及外交の事』 - 山口泉処（旧幕御目付・大[[目付]]・江戸町奉行・神奈川奉行・外国奉行）
第6回：『御側御用取次・外国奉行の事』 - 竹本要斎（旧幕外国奉行・御小姓組番頭格御小姓頭取・御側御用取次）
第7回：『地方の警察民政等-八州取締代官手代の事』 - 宮内公美（旧幕代官手代・八州取締）
第8回：『昌平坂学問所の事-附録・学問所規則覚書』 - 石丸三亭（旧幕学問所勤番組頭）
第9回：『欧洲奉使談判の模様及び御右筆目付の事』 - 河内熈（旧幕奥御右筆・外国掛目付）
第10回：『御庭番の事』 - 川村帰元（旧幕御庭番）
第11回：『江戸市中取締の事及伝馬町牢屋の事-附録・町奉行所勘定書』 - 谷村正養（旧幕町奉行付与力）


これらの記録は、江戸幕府の役人たちが実際に体験した出来事を語ったものであり、当時の社会を知る上で非常に貴重な一次資料となっています。

出版

『旧事諮問録』は、1891年に旧事諮問会によって刊行されました。その後、1986年には岩波文庫から上下巻で復刻され、より多くの人が手に取れるようになりました。

意義

『旧事諮問録』は、江戸時代の社会や文化、政治制度を知る上で欠かせない文献です。当時の人々の生の声が記録されており、歴史をより身近に感じることができます。特に、武士や役人の暮らしぶり、大奥の様子、司法や警察の仕組みなど、多岐にわたるテーマについて具体的な情報が得られます。これらの情報は、江戸時代の歴史研究において非常に重要な資料となっています。

外部リンク

岩波文庫>旧事諮問録

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