旧五箇山街道峠道

富山県南砺市に位置する旧五箇山街道峠道は、峻険な山岳地帯にある五箇山と、その外側である砺波平野を結ぶかつての交通路の総称であり、現在は市の指定文化財となっています。五箇山地域は古くから通行が困難な秘境として知られていましたが、これらの峠道は、地域の人々の生活や文化、経済を支える重要な役割を果たしてきました。

歴史的背景と街道の重要性

五箇山が交通の難所であったことは、平家や南朝の落人伝説が残されていることからも伺えます。しかし、室町時代後半に浄土真宗が北陸地方に広まると、敵対勢力である戦国大名の領地を避けて本願寺へ向かうルートとして、五箇山や白川郷を経由する道が重要視されるようになりました。これに伴い、地域の開拓が進められ、戦国時代後半には善徳寺を中心に城端城下が発展し、江戸時代初頭には城端町が五箇山への主要な入り口として重要視されるようになります。

加賀藩時代の整備と主要ルート

天正13年（1585年）以降、五箇山は加賀藩領となります。藩は下梨村の市助を代官に任じ、彼の主導のもと近世にかけて多くの峠道が整備されました。文化11年（1814年）に作成された「越中五箇山絵図」など、藩政期に描かれた絵図には、五箇山と平野部を結ぶ多数の峠道が描かれています。

江戸時代後期、詳細な測量で知られる石黒信由は、その記録を「三州測量図籍」にまとめ、五箇山の峠道として以下の七つの主要ルートを整理し紹介しています。

• - 小瀬峠道: 城端から小瀬峠を越え、小瀬、漆谷などを経て西赤尾町村に至る道。
• - 朴峠道: 城端から唐木峠、朴峠を経て、五箇山の中心部である上梨や下梨へ通じる道。最も往来が多かった主要路です。
• - 細野峠（杉尾峠）道: 城端から細野峠を越え、杉尾や大崩嶋方面へ向かう道。
• - 栃原峠道: 井波の志観寺付近から栃原峠を越え、栃原、下原に至る道。
• - 杉谷峠道: 井波の松島から杉谷峠を越え、下原村へ出る道。ここから利賀川流域や小谷地域へと繋がりました。
• - 庄川仙納原大橋より利賀谷往来飛州境迄道筋: 仙納原大橋付近から利賀谷を通り、高沼などを経て百瀬川流域や利賀川流域へ向かう道。
• - 利賀谷往来高沼村より婦負郡高清水村通り百瀬谷往来道筋: 高沼村から高清水を経て百瀬川流域の菅沼集落などへ通じる道。

朴峠道の詳細

上記の中で、特に五箇山の中心部である上梨谷・下梨谷と城端を結ぶ朴峠道は、最も多くの人々が行き交った道でした。五箇山の住民は、人力や牛を利用して塩硝、紙、生糸といった地域特産品を運び出し、代わりに米や桑、楮などの原料、生活必需品を運び入れました。

城端から朴峠までの道は、唐木峠越えを含み、特に冬場は積雪により交通が困難となる難所でした。このため、朴峠には旅人の便宜を図る「お助け小屋」が常設され、米や塩の提供、資材の入手などが可能だったとされます。また、この道は加賀藩から五箇山へ送られる流刑人が利用した道でもあり、加賀騒動に関わったことで知られる大槻伝蔵もこの峠を経て祖山村へ送られています。

現在、城端町東新田から打尾谷口までの区間は、ほ場整備によってかつての峠道の面影は失われていますが、若杉集落跡上部を通る林道から唐木峠への登り道には、自然石を敷き詰めた石畳の一部が残存しています。

文化財としての指定

これらの歴史的価値を持つ峠道のうち、朴峠道を含む一部が文化財として指定されています。昭和58年（1983年）10月14日、城端町によって「旧五箇山街道峠道」として文化財の指定を受け、その後の市町村合併を経て、平成18年（2006年）11月28日には、旧平村側のルートも含めて南砺市により改めて市の文化財に指定されました。旧五箇山街道峠道は、五箇山地域の地理的特性と歴史を物語る貴重な遺産です。

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