旧山崎家別邸

旧山崎家別邸の魅力と歴史

旧山崎家別邸（きゅうやまざきけべってい）は、埼玉県川越市松江町に位置し、近代日本の住宅文化の発展を示す重要な歴史的建物です。大正末期から昭和初期にかけて建設されたこの別邸は、2019年にその母屋部分が重要文化財に指定され、地域の文化遺産として注目されています。

この建物は1925年（大正14年）に、地元の菓子商である亀屋の五代目、山崎嘉七の隠居所として建てられました。設計は建築家・保岡勝也が担当し、洋館と和館、さらに土蔵が一体となった独特な構造を持っています。特に母屋は、木造モルタル仕上げの洋風な造りで、1階の外壁は吹付モルタル仕上げ、2階には細い横目地の磨き壁が施されています。

母屋は単なる隠居所としての役割を超え、川越のプライベートな迎賓館としての機能も果たしていました。このため、陸軍の演習 visita に訪れた皇族が宿泊するなど、歴史的なエピソードが数多くあります。館内は、和風と洋風の接客室が巧みに配置され、内部の動線も非常に機能的です。また、色彩豊かなステンドグラスが館内を彩っており、2階へ上がる階段には小川三知の代表作「泰山木とブルージェ」があります。1階のステンドグラスにも別府七郎の特注図案が使われており、各客室の窓からは美しい光が差し込むように設計されています。

設計者の保岡は、1928年に著書『茶室と茶庭』を出版するほどの日本庭園の専門家であり、旧山崎家別邸の庭にもその知識が色濃く反映されています。和室の畳廊下の南側には、緩やかな高低差を持つ庭が設けられ、季節ごとの花々や石灯籠がアクセントとなっています。1924年の設計図によると、母屋の東には芝生の児童遊技場、そしてその北側には温室と花壇が配置され、庭のデザインには当時の生活様式が垣間見えます。

この別邸は川越の伝統的建造物群が保存されている地域の一部に位置し、2000年には主屋、茶室、腰掛待合が川越市指定の有形文化財として認められました。さらに、2006年には市に寄贈され、その後2011年には庭園が国の登録記念物として登録され、2019年には母屋が国の重要文化財に指定されるという栄誉を受けました。また、館内の一部を除き、一般公開されており、訪れる人々はその貴重な歴史と美しい建築を楽しむことができます。

旧山崎家別邸は、川越市の文化と歴史を語る象徴的な存在であり、多くの人にとってその魅力を知る貴重な機会となっています。建物そのものの美しさだけでなく、そこに息づく歴史や人々の想いもぜひ感じていただきたいスポットです。

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