旭川学テ事件

旭川学テ事件

旭川学テ事件とは、1956年から1965年にかけて実施された全国中学校一斉学力調査（以下、学テ）に反対する教師たちが、学テの実力阻止を図り、公務執行妨害罪などで起訴された事件です。この事件は、教育における国と国民の権利、そして教育の地方自治を巡る重要な論点を含んでおり、最高裁判所の判決は、その後の教育政策に大きな影響を与えました。

事件の背景

1950年代後半から1960年代にかけて、文部省は全国の中学生を対象とした学力テストを実施しました。しかし、この学テに対して、一部の教師や教育関係者から強い反発が起こりました。彼らは、学テが画一的な教育を強要し、子どもたちの個性を無視するものであると主張しました。特に、旭川市立永山中学校では、学テに反対する教師たちが、テストの実施を阻止するための活動を展開しました。

事件の経緯

旭川市立永山中学校で学テに反対する教師たちは、学テ実施日にテスト会場に侵入し、テストの妨害を試みました。これにより、彼らは建造物侵入罪や公務執行妨害罪などで起訴されました。

一審の旭川地方裁判所、二審の札幌高等裁判所では、建造物侵入罪については有罪とされましたが、公務執行妨害罪については、学テが違法であるとして無罪となりました。しかし、最高裁判所は、学テの実施は違法ではないとし、公務執行妨害罪を認め、有罪判決を下しました。

裁判の内容

最高裁判所の判決では、以下の点が主な争点となりました。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律54条2項の解釈
憲法と子どもに対する教育内容の決定権の所在
教育行政機関による教育内容の規制と教育基本法10条との関係
中学校学習指導要領の効力
学テが教育基本法10条に違反するかどうか
教育の地方自治と学テの適法性

最高裁は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律54条2項は、文部大臣に学テの実施を教育委員会に要求する権限を与えるものではないものの、その要求に応じた教育委員会の実施行為は違法ではないと判断しました。また、憲法上、親や教師に教育の自由が認められる一方で、国は、子どもの利益や社会の公共の利益のために、必要かつ相当な範囲で教育内容を決定する権限を持つとしました。さらに、学テは教育基本法10条に違反しないと判断し、当時の学習指導要領も有効であるとしました。

裁判の評価

この判決は、国と国民の双方に教育権を認めた点で評価されています。しかし、同時に、国の教育への介入を大幅に認めた点については批判も強く、教育の自由をめぐる議論を深めるきっかけとなりました。

学テのその後

旭川学テ事件を契機に、全国各地で学力テストに対する反対運動が活発化しました。1965年には、全国一斉の学力テストは中止され、1966年の旭川地裁判決で学テが違法と認定されたことから、完全に中止されました。その後、全国一斉の学力調査が再開されたのは、2007年の全国学力・学習状況調査まで待たなければなりませんでした。

関連する事件・人物

岩教組学テ事件: 1961年に岩手県教職員組合が学力テストに反対して行った争議行為に関する事件。
上田文雄: 旭川学テ事件の弁護士の一人であり、元札幌市長。
家永教科書裁判: 教科書検定制度をめぐり争われた裁判。
麹町中学校内申書事件: 内申書の記載をめぐり争われた事件。
東大ポポロ事件: 学生運動における公安条例の解釈をめぐり争われた事件。

まとめ

旭川学テ事件は、戦後の教育における重要な転換点となりました。この事件を通じて、教育における国と国民の権利、教育の自由、そして教育の地方自治といった複雑な問題が浮き彫りになりました。この事件は、今日の教育を考える上で、重要な教訓を与えてくれます。

外部リンク

旭川学テ事件判決 - 最高裁判所ホームページ
* コトバンクへのリンク'>『教育権』 - コトバンク

もう一度検索